サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年5月 5日号
渡辺正行 タレント
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阿木燿子の艶もたけなわ/250

大学在学中にトリオ「コント赤信号」で芸能界デビュー。"リーダー"の愛称で知られ、バラエティー番組をはじめお茶の間で親しまれてきた渡辺正行さん。新人芸人の発掘に舞台出演にと、年を重ねるにつれ活動の幅は広がるばかりです。今も昔も、お笑いといえば競争の激しい世界。知られざる下積みの過去に、阿木さんが迫りました。

◇大爆笑だったコントをストリップ劇場でやったら、まったく受けなくて。

◇石井光三さんは、仕事を取るためには土下座も辞さない方ですよね。

◇何も言い返せないのが悔しくて。いつか病気で倒れてやるぞ、「わしが悪かった」と言わせると。

阿木 渡辺さんは明治大学のご出身ですよね。私、先輩なんです。それも大が付く(笑)。

渡辺 もちろん、存じ上げています。なので、明治を出ると芸能界で活躍できるんだと、僕、ずっと思っていました。

阿木 渡辺さんは落語研究会ですよね。いわゆる落研(おちけん)。

渡辺 そうです。僕の2年先輩が立川志の輔さん、その2年上が三宅裕司さんです。

阿木 じゃ、それがそのまま"紫紺亭志い朝(注1)"という流れになっているんですね。この高座名、優秀でないと貰(もら)えないのでは?

渡辺 というか、好きな先輩の名前が欲しいと思ったら、1年くらいかけて"欲しいです"オーラを全開にして、アピールするんです。

阿木 いい名前ですよね。もともと明治大学のシンボルカラーが紫紺。それに古今亭志ん生さんの流れを汲(く)んでいるふうな"志い朝"なんて。

渡辺 三宅さんに憧れて志の輔さんが、志の輔さんに憧れて僕が引き継いだんです。

阿木 私、大学時代は軽音楽部に所属していたんですが、母がいつも嘆いていました。「お前を文学部というより、軽音楽部に入れたみたいだ」と。

渡辺 それは僕も同じです。一応学校には行くんですが、教室には顔を出さず、そのまま部室代わりの雀荘に行ってましたから(笑)。

阿木 落研の人がテーブルを囲む麻雀(マージャン)って、面白そうですね。

渡辺 先輩がやっている後ろで見てるんですけど、やり取りが軽妙で、おかしかったですね。みんな、人を笑わせようとしながら牌(ぱい)を握ってるんです。そんな人ばっかりが集まっていましたからね。

阿木 そもそも落研に入部なさった、きっかけって?

渡辺 僕は千葉の田舎から出てきて、もともとは剣道をやっていたんです。でも面白いことが大好きだったもので、入学して何か部活に入りたいと思っていたところ、新入生を勧誘する学生が着物を着ているのを見て、楽しそうなクラブだなと。

阿木 着物姿が目立っていた?

渡辺 そうなんです。看板を持って騒いでいて。「あぁ、この人たちバカなんだろうな。でも楽しそうだな」と(笑)。事実、変なヤツがたくさん居ましたね。一年中、同じ服しか着ないヤツとか。

阿木 臭いません?

渡辺 臭かったですね(笑)。一年中、半袖にズボン。冬になるとコートを着るんですが、コートをパッと脱いだら下着がない。

阿木 えっ、何で?

渡辺 落研の仲間達の笑いを取ろうとして。

阿木 渡辺さんは大学を卒業して、そのまま、お笑いの道に行かれたんですよね。

渡辺 一応、就職も考えたんですが、若い時って、自分の才能がどこにあるか、自分で見定められないじゃないですか。なので、とりあえず三宅さんや志の輔さんみたいな方向かなと思って。あの頃、お二人は役者を目指していらっしゃいましたから。

阿木 それで芸能事務所の「テアトル・エコー」で俳優修業を?

渡辺 はい、そこでラサール石井と会って。小宮孝泰はもともと落研で一緒だったので、3人でコントを始めたんです。

阿木 それがそのまま「コント赤信号」になった。

渡辺 劇団に所属してても、お金がないから、舞台とかあまりできなくて。それでコントなら3人でやれるし、場所も選ばないし。

阿木 そのコントが凄(すご)い人気になったんですね。

渡辺 もうドッカンドッカン受けるんです。僕達が作ったのは15分くらいのものだったんですけど、文化祭なんかに出ると、アドリブを入れて30分くらいやって、ずーっと受け続けている。

阿木 その時はこれで"イケる"と?

渡辺 思いましたね。役者じゃ食えないけど、お笑いだったらと。ただ当時はお笑いをやるには、末廣亭ですとか、演芸場みたいなところとかしかなくて。そのうちストリップ劇場でやってみないか、というお話を頂いて。その頃ですね。お笑いのほうに舵(かじ)を切ろうと思ったのは。

阿木 その方向転換が、今につながったんですね。

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