三井住友銀行は3月6日、工藤禎子(ていこ)専務執行役員(59)を4月1日付で副頭取に充てる人事を発表した。ナンバー2に当たる副頭取に女性が就くのは、三菱UFJ銀行、みずほ銀行を含めた3メガバンクで初めてとなる。
この人事の発表の翌日、三井住友フィナンシャルグループの太田純前社長の「お別れの会」が東京都内のホテルで開かれた。現役社長のまま亡くなった太田氏の遺影を前に、数多くの参列者が別れを惜しんだが、工藤氏も若かりし頃、太田氏の下で、まだ日本では知られていなかったプロジェクトファイナンスの草創期に携わった縁を持つ。また、後に太田氏が進めたベンチャー企業育成の母体組織となった「成長産業クラスター」の室長も務めた。「太田氏が生きていれば、工藤氏の副頭取昇格をさぞ喜んだろう」と三井住友銀行関係者は語る。
工藤氏は1964年、神奈川県生まれ。フェリス女学院中・高を経て、慶應義塾大経済学部に進み、87年4月に旧住友銀行に女性総合職の1期生として入行した。典型的な「お嬢様」の略歴だが、実際は、大学では体育会庭球部に入り、毎日、真っ黒に日焼けするまで練習していたという。
入行後は、専門性を磨きたいとスペシャリスト志向で、3年目から国際畑に転じ、プロジェクトファイナンスやストラクチャードファイナンスといった新たな金融スキームに携わった。それまで英語が堪能でなかった工藤氏は、語学学校に通って英語を習得する力の入れようだったという。また、「工藤氏が手掛けたプロジェクトファイナンスでは、99年のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)向けのプロジェクトファイナンス1250億円があります。日本政策投資銀行などと組み、関西における画期的なテーマパーク向け案件として注目を集めた」(三井住友銀行関係者)という。
工藤氏は2018年から5年間、トヨタ自動車で初の女性社外取締役も務めた。この時期、同じ三井住友出身の福留朗裕氏(現三井住友銀行頭取)がトヨタの金融子会社のトヨタファイナンシャルサービスの社長に就いている。福留氏と工藤氏の縁はこればかりではない。福留氏と工藤氏はともに世界を震撼(しんかん)とさせた1997年のアジア通貨危機に直面しているのだ。
「当時、工藤氏は香港の住友銀行キャピタルマーケットでデリバティブを担当していたが、同時期、福留氏もさくら銀行(現三井住友銀行)の香港拠点で市場部門の為替ディーラーをやっており、アジア通貨危機への対応に奔走した」(同)
その両氏が頭取、副頭取で席を並べることになるのは因縁か。
工藤氏が汗を流した慶應大庭球部のコート脇には、小泉信三元塾長の名言「練習ハ不可能ヲ可能ニスル」が掲げられている。工藤氏が肝に銘じる言葉である。
「仲間とのコミュニケーションをなにより重視し、温和な性格だが、自分がやりたいことに対する集中力はすごいものがある」というのが周囲の工藤評だ。「ガラスの天井」を破るメガバンク初の頭取誕生も夢ではないかもしれない。
(森岡英樹)