サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2018年9月 2日号
風間杜夫 俳優
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阿木燿子の艶もたけなわ/216

かつて、つかこうへい事務所の看板俳優として活躍し、映画「蒲田行進曲」の銀ちゃん役やテレビドラマ「スチュワーデス物語」の教官役で人気を博した風間杜夫さん。その後は活動の場を舞台に求め、今年11月にはアーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」で主演を務めます。つかさんの思い出をはじめ、舞台への意気込みなどを伺いました。

◇舞台に立って拍手を頂いたりすると、「俺、今、生きてるな」と実感します。

◇つかさんは、いろいろな意味で役者さんの個性を引き出す演出家でしたよね。

◇役者が魅力的に見えなければ、自分の芝居は成功したとはいえないと思ってたのでは。

阿木 私、一時期、亡くなられた演出家のつかこうへいさんと親交があったんですが、一度、風間さんをお見掛けしたことがあって。

風間 どこでですか? 新宿紀伊國屋ホールの楽屋だったりとか?

阿木 多分そうだと思います。化粧前で物静かにメークをしていらしたお姿が印象的で。風間さんはつかさんとは、長いお付き合いなんですよね。

風間 そうですね。亡くなられるまで34年、親しくさせて頂きました。でも、演劇活動を一緒にしたのは初めの7年近くです。しかも、稽古(けいこ)を含めて芝居の間だけですから。つかさんって、毎日会いたい人ではないんです。でもたまに会うとパワーをくれる人でしたね。

阿木 いろいろな意味で刺激的な方でしたよね。つかさんのお芝居は何度か拝見しているんですが、ある時、舞台終了後に楽屋をお訪ねしたら「燿子さん、今日はどうでしたか? 初日が開くまで毎回、胃が痛くなるんですけど、今回は大丈夫でした」とおっしゃった時があって。でも、お顔を拝見したら瞳の色がいつもと違うの。一種、取り憑(つ)かれたような目になっていて。あー、そうか、今回は胃じゃなくて、頭の方に来たんだな、とその時思ったんですけど(笑)。それにしても、つかさんのお芝居はまるで科白(せりふ)の銃撃戦!

風間 今から思うと、よくあのスピードに付いていけたなと。

阿木 つかさんの第一印象って、どうだったんですか?

風間 亡くなられてから、思い出話をすることが多くなったんですが、つかさんはもともと慶應義塾大学出身なんですが、早稲田の演劇集団に「暫」というのがあって、そこに乗り込んできたんです。そこから三浦洋一、平田満、井上加奈子の3人を引っ張って、「劇団つかこうへい事務所」を作ったんです。で、その「暫」から僕も声を掛けられて、出演することになったのですが、その稽古場につかさんが現れて。

阿木 つかさんのことだから、さぞかしドラマチックに?

風間 まさに登場の仕方が演劇的でしたね。ドアがバッと開くと、逆光の中に針金のような細いシルエットが浮かび上がるんです。それがつかさんで、傍らにある椅子を、いきなりガッと引いて、煙草(たばこ)を吸いながら......。

阿木 目に浮かびます(笑)。

風間 「お前が風間か、ちょっとやってみろ」と。つかさんの言う科白を口移しにする、口立(くちだ)てというのを初めて経験して。でも、最初はわけが分からなくて。

阿木 その口立てが日々、変わるんですよね? お芝居の全体像って、いつごろから見えるんですか?

風間 幕が開く1週間前くらいですかね。

阿木 それで役作りとか、できるんですか?

風間 僕らは役作りは必要ないんです。つかさんの言う通りにやっていればいいので。

阿木 主人(宇崎竜童氏)もつかさんの演出による「ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、美空ひばりを唄う」という企画のステージをやらせて頂いたんですけど、主人、踊る羽目に陥って、円形脱毛症になりました(笑)。最終日までの間に日に日に禿(は)げが大きくなって、最後は黒い靴墨を塗ってましたね(笑)。それでも上手(うま)くステップが踏めなくて、つかさんから「宇崎さんは顔で踊ればいいんです。ニカッと笑って、ニカッて」って(笑)。

風間 僕は踊りはやらされませんでしたね。

阿木 役者さんを踊らせるのがお好きなつかさんなのに、よほど駄目だと思われたんですね(笑)。

風間 「風間、お前はな、もう少し踊れるはずなのに、なぜここでやめちゃうんだ」と客に思わせておけばいいんだ、って(笑)。

阿木 いろいろな意味で役者さんの個性を引き出す演出家ではいらっしゃいましたよね。

風間 そうですね。だから僕らもつかさんに任せておけば、って思ってました。つかさんにとれば、役者が魅力的に見えなければ、自分の芝居は成功したとはいえないと思ってたんじゃないでしょうか。

阿木 それにしてもお芝居に入ったら演出家は絶対的な存在でしょう? 時には理不尽なことをおっしゃることもあると思うんですが。役者さんって、本当によく耐えますよね。風間さんは、修行僧タイプ?(笑)。

風間 いえいえ、打たれ強いというのはありますけど。嫌なことを言われても聞き流すというか。でも、夢ではつかさんのこと、何度も殴り倒してますからね。根っこの深いところでは、腹を立ててたんでしょうね(笑)。

阿木 「こんちきしょう、どうしてそこまで言われなきゃいけないんだ」と?(笑)。でも、その怒りをぐっと堪(こら)えて。怒りといえば、かの名作「蒲田行進曲」はつかさんの代表作ですが、舞台では風間さんをはじめ劇団の皆さんが演じていらっしゃいましたよね。それが映画化に際して、松田優作さんと主人の宇崎竜童の名が挙がっていたとか? 最初にそれをお聞きになった時、何で俺達じゃないんだ、と腹が立たれたのでは?

風間 阿木さんの前で大変失礼なんですが、僕ら飲み屋でスポーツ新聞を見て「おいおい、このキャスティング、どうだよ。大丈夫か?」って。お二人のお芝居がどうのとかではなくて、「銀幕のスターと大部屋俳優という設定の二人がサングラスかけて出てきたら、どっちがどっちだか分からねぇぞ」とか言って酒の肴(さかな)にしてたんです。でも、あの話、優作さんが辞退されたとかで。

阿木 そうなんですか? 主人にそんなオファーがあったというのは記憶にないんですが。

風間 映画化の話をつかさんから聞かされた時、「お前ら、誰も出ねえからよ」って。僕らも映画は映画スターが演じるものだと思ってましたから、それは当然というふうに捉えてましたね。

阿木 そうおっしゃりつつ、根っこのところでは「ググ、悔しい」みたいなのは?(笑)。ごめんなさい、しつこくって(笑)。

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