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2019年12月15日号
グローバル経済で変わる働き方「家族を想うとき」が描く現実
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ケン・ローチ監督の「家族を想うとき」がすごい。働く者に過酷な現実を容赦なく突きつけているからだ。

ローチは英国映画界の巨匠で、カンヌ国際映画祭では2度もパルムドールをとったほかに多くの受賞歴がある。その彼が描くのは、労働者階級の人々の生き方ばかりで、83歳なのに今度も研ぎすまされたナイフを思わせる表現力に驚かされる。それなのに今作品は賞とは縁がなかった。
映画は、ある地方都市を舞台に、40代の主人公リッキーがフランチャイズの宅配ドライバーの仕事を得ようとする面接からはじまる。そこで仕事をしきる主任から「うちはオーナー制で雇用関係はなく、収入は運送料、勝つも負けるも自分次第だ」と言われ、彼は「長い間、このチャンスを待っていた」と意気込む。
グローバル経済になって働き方がいかに変えられてきたか、その実態を描いた映画だ。リッキーは介護福祉士の妻、高校生の息子、小学生の娘と4人の賃貸ぐらしで、彼の夢は一軒家をもつこと。そのために妻の車を売って、配送車を買うことに。
さあ、それからが大変。初めは順調だったのに1日14時間も働きっぱなし。妻の方はバス代を払ってあちこちへ介護に。家族の会話も携帯ですませ、食卓を囲む機会も少ない。その揚げ句、息子の不祥事で親子げんかがはじまり、彼は息子の携帯を奪いとる。
「携帯は息子にとって命も同然」という妻の一言が重い。いまの時代、携帯がなければ若者はにっちもさっちもいかない、ということがわかる。
後半部、働き者のリッキーががんばればがんばるほど借金がかさみ、追い詰められ、家族が引き裂かれていく日常がスピーディーに展開される。時間に縛られた仕事がこれでもかと追尾されている。
英国であった実話を基にしている。日本では2003年、行き詰まった配送ドライバーが会社にガソリンをまいて立てこもる事件があった。リッキーはどこへ向かう?(木下昌明)

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