サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年5月19日号
都内の百貨店は「外国人向き」で大儲け! 日本人はいなくなる?
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牧太郎の青い空白い雲/945

 ゴールデンウイークを避け、比較的観光客が少ない4月末、伊豆に遊びに行った。定宿にしているホテルの売店でいつものバニラアイスを買ったら、1個420円。高い。2年前は「330円」だったのに......。物価高を痛感する。翌日、この街のスーパーの食料品売り場で昼メシ用に天丼を買ったら「400円」。首都圏で「ドンブリもの」は概(おおむ)ね「500円以上」だからかなり安い。同じ地域でありながら、観光客向けのバニラアイスの値段が地元民が主食にする天丼より高い? ちょっぴり複雑だ。

 実は、現役の政治記者だった昔、尊敬する(中曽根内閣の官房長官)後藤田正晴さんに「日曜日は必ず百貨店に行って、食料品などの価格をチェックしているんだ。モノの価格が人々の生き方を変え、歴史を変える。だから、お前さんも暇を作って百貨店に行ったほうがいい」と教えられた。「教え」に従って価格変動を見ていると、この1〜2年、モノの値段が超アンバランスになっている。バニラアイスと天丼を比べてみれば歴然だ。

 大手百貨店が4月16日までに発表した「2024年2月期の決算」では、軒並み売上高が前年より増えた。いつも利用する「高島屋」は前年比8%増の9521億円。銀座と浅草に店舗を持つ「松屋」は前年比31・2%増。「歴史的な儲(もう)け」である。外国人旅行者が百貨店を利用するからだ(2月の免税総売上高は約469億9000万円。前年比171・5%増だった)。〝爆買い〟ではない。欲しい物を吟味して、気に入った物を購入する。要するに、国内客と同じような「賢い買い方」だ。

 しかも、お客さんは「お金持ちの中国」だけではない。例えば、松屋銀座本店の国・地域別シェアは19年は中国81%、台湾、韓国、香港は各2%だったが、23年上期には中国47%、台湾14%、香港8%、韓国4%。タイ、シンガポール、マレーシアのお客さんも増えている。ともかく、大都会の百貨店の多くは「歴史的な円安」を背景に、外国人客で〝過去最高の売り上げ〟を記録しているのだ。

 業界紙『繊研新聞』によると、「三越伊勢丹は富裕層のニーズを掘り起こそうと22年10月、海外外商担当を新設し、専任担当者20人のチームを立ち上げた」という。要するに有名百貨店は「外国人向き」になっているのだ。地方都市の百貨店は厳しい。モールの普及で、若いお客さんは減り、閉店が相次いでいる。老朽化した店舗を建て替える余力がないから、廃業を選択するしかないのだろう。

 日本人は円安、物価高で苦しんでいる。購買意欲が乏しい。となれば、インバウンド需要があるかどうかが分かれ道? 生き延びようとする百貨店が「外国人向き」のサービスに存在意義を見いだそうとするのは仕方ないが......。ああ、日本は貧乏になってしまった。

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