名古屋市が進める名古屋城天守閣の「木造復元」に向けて、江戸時代の階段を再現した施設「階段体験館」(愛称・ステップなごや)が11月2日、正門近くにオープンした。
「史実に忠実な」復元にこだわる河村たかし市長が新天守閣にエレベーターを設置しない方針を示していることから、代わりにバリアフリーを実現する「新技術」開発に向けた実験を行うため、約9000万円をかけて建設された。
プレハブ2階建ての内部に宮大工の手で再現されたのは、高さ約4㍍を17段で刻んだ最大勾配約47度の階段。4日、名古屋市内から訪れた母娘連れに感想を尋ねると、「松本城のような急なものを想像していたけど、家の階段をちょっと急にした感じ」と拍子抜けした様子。車いすで上り下りする新技術の実験がここで行われることを告げると、「本当にできるのかな」と答えた。
そもそも、「木造復元」事業は頓挫したままだ。河村市長は8月末、これまで「死守する」と繰り返してきた3年後の2022年末完成を断念することを正式表明した。石垣が「危機的な状況にある」と指摘し、木造復元より石垣修復を優先することを求めている市の有識者会議や文化庁からの「宿題」は山積し、今後の見通しは立たないまま。
そんな中でも河村市長は、バリアフリー新技術を募る国際コンペを年度内に始める意向を示し、「(新技術で)世界中の体の不自由な人が階段を上がっていく。ものすげえ喜ばれると思う」と鼻息も荒い。市は、歩行を補助するパワーアシストスーツや、舞台の「せり」のような垂直昇降装置などの応募を想定している。
一方、障害者などで作る市民団体は7月までに、エレベーター設置を求める約2万人分の署名を市に提出。共同代表の近藤佑次さん(33)は「木造復元がいつ実現するかめども立っていない中、立ち止まって考え直してほしい」と話し、新技術には懐疑的だ。(井澤宏明)