高機能の眼内レンズが海外で開発され、日本でも白内障治療の選択肢が広がっている。見える世界は大きく変わり、眼鏡なしの生活も可能な時代となった。身近になったとはいえ、「術後の見え方に不満が......」という声もしばしば耳にする。手術は、一生に一度のワンチャンス。悔いのない白内障手術のポイントとは――。一線の医療ジャーナリストがルポする。
中高年世代は加齢に伴い、見えづらさを感じることが多くなる。「もう年だから」と考えがちだが、目の病気がひそかに進行している可能性もある。中でも白内障は、高齢者の8割以上に発症する代表的な目の病気だ。
「白内障は、透明に近いレンズの部分(水晶体)が濁ってしまう病気で、光を通しにくくなるために、見えづらくなります(図1)。加齢が主な原因で、人生100年時代の今、誰もがなりうる病気です」
そう話すのは、秋葉原アイクリニック(東京都台東区)をはじめ複数の医院で白内障手術を年間約1万件手がける眼科医の赤星隆幸氏(62)だ。
とはいえ白内障は、手術で水晶体を新しいレンズと入れ替えれば、視力が回復する病気でもある。
「水晶体を丸ごと全摘出して何針も縫う大手術を行っていた時代もありましたが、手術法の進化で、今では出血もせず5分ほどで済む小手術となりました。角膜を約2〜3ミリ切開し、その小さな創口から器具を入れて、水晶体をあらかじめ分割し、超音波で水晶体の核を細かく砕きながら吸い取り、眼内レンズを挿入します」(赤星氏)
ちなみに赤星氏は、水晶体をあらかじめ分割するフェイコ・プレチョップ法という手技の考案者で、プレチョッパーという器具も開発している。
◇多焦点レンズの性能が向上
そして近年は、海外を中心に白内障手術で挿入する眼内レンズの開発が進んだ。日本では2009年に乱視を矯正できる眼内レンズが認可され、さらに14年ごろからは、遠中近の3カ所にピントが合う3焦点レンズが使用されるようになった。
眼内レンズには、水晶体のように、レンズ自体の厚みを調整する機能はないため、近くか遠くの1点にピントを合わせる「単焦点レンズ」、遠近など複数の距離に同時にピントを合わせる「多焦点レンズ」のどちらかを選ぶことになる。
それぞれの長所欠点については後で詳しく触れるが、日本では、単焦点レンズを使用した白内障手術が保険適用されるため、8〜9割以上の人が、単焦点レンズを入れているのが現状だ。