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2019年11月10日号
「逆算」せず「創造」を――「ほんとう」の人生の始まり=下重暁子
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◇砂漠の老人が突きつけた、未来へと向かう「時間の本質」

◇定年までは世をしのぶ仮の姿、本領発揮はその後に

「年にしばられると、人生の面白さが半減する」――。作家、下重暁子さんは近著『年齢は捨てなさい』(幻冬舎新書)で、こう説く。「定年後の生き方」は組織からの脱却であり、自己の解放だと語る。指針のない人生を謳歌せよ!下重さんのエールをお届けする。

日本人の時間の感覚に気付かされたのは、砂漠を目前にした時だった。
1977年の半年間、私はエジプトのカイロで暮らした。つれあいがテレビ局の中東特派員になり、ベイルートからカイロに支局を移したからだ。以前から価値観の全く違う場所で暮らしてみたかった。そこで半年間支局に置いてもらうことにしたのだ。
妻の権利としてはただで暮らせるが、私の場合、日本で仕事があるため遠慮していただけだった。ベイルートと違ってカイロは西洋の薫りが強く入り込んではいない。
ナイルの支流に面した8階建てのアパートメント。朝、窓をあけると上流からゆるゆると帆船が下ってくる。羊たちがつながれている。水ガメが重ねられている。ガラベーヤ(足元まである民族衣裳(いしょう))を着た男が一人。さまざまなものが川の流れに身を任せていた。
モスクから流れるもの憂いしらべは、1日に5回、お祈りに来ることを誘う言葉......。
夕暮れになると私たちはよく車で30分ほどのギザのピラミッドへ出かけた。円すい形の巨大な大、中、小、三つの王の墓が砂漠に影を落とす時刻、カイロっ子たちは、ピラミッドの石積みに腰かけて夕涼みをする。真似(まね)をして下段の石によじのぼると、目の前を一人の旅人が行く。あごひげの白さからすると老人に見えるが、気候の厳しいカイロでは20代でも白髪が目立つのだ。
その老人はロバに乗っている。布にくるんだ荷物が体にくくりつけられている。

うさぎとマツコの人生相談
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