カルロス・ゴーン前会長(65)の逮捕から10カ月、日産自動車は新たな激震に襲われた。"追放劇"の中心人物だった西川広人社長(65)が、役員報酬を巡る新たな不正の発覚で辞任に追い込まれたのだ。非常事態が続く日産は、果たして立ち直ることができるのか。
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不正が発覚した西川広人(さいかわひろと)氏は1977年に東大経済学部を卒業し、トヨタ自動車と激しく覇権を争っていた日産に入社した。90年代に日産は経営危機に陥り、仏大手自動車ルノーの傘下で再建を進めたが、系列企業との取引を大幅に見直した「ゴーン改革」のなかで、西川氏は購買部門の責任者となった。
「購買」は部品、消耗品、設備といった事業に必要なものを買うことだ。西川氏はコストカットを徹底させ、「ゴーンの忠実な部下」として常務、副社長と順調に出世した。2017年には社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。ルノー・日産・三菱自動車連合を率いて世界を飛び回る"カリスマ経営者"をトップに戴(いただ)きつつ、日産の実務を取り仕切る役割を担った。
この年に発覚した工場の検査不正問題で、西川氏は「ゴーン会長(当時)に責任はない」とひたすらかばい続け、批判を浴びた。管理能力の高さとトップへの忠節は折り紙付き。現在65歳。ゴーン前会長と同じ齢だ。
そんな西川氏が昨年11月、ゴーン前会長逮捕を機に態度を一変させる。巨額の役員報酬を隠し、私的な資金流用に走っていたと前会長を断罪し、トップの座から引きずり降ろす先鋒(せんぽう)に立ったのだ。