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2019年9月 1日号
子ども虐待死「母の罪」とは何か 野田市「心愛ちゃん」事件"母親有罪への疑問"
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▼裁判傍聴のDV被害者が吐露「善悪の判断を奪われた」

▼親から子へ...「DVと虐待」暴力の連鎖をどう断ち切る

夫婦や恋人など親密な関係の中であらゆる"力"を使い、支配と従属を強めるドメスティックバイオレンス(DV)。子どもの前で行われる「面前DV」が児童虐待に影を落とす中、世間の耳目を集めた虐待死事件でDV被害者である母親が有罪判決を受けた。母の罪とは何か。

千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が虐待死した事件で、傷害ほう助罪に問われた母親(32)は、夫の勇一郎被告(41)からDVを受けていた。その母親に有罪判決が言い渡された翌6月27日のこと。衆議院第2議員会館の会議室で開かれた「DV防止法と関連法を考える」集会で、裁判を傍聴した吉田由美さん=静岡市清水区=が判決の感想をこう述べた。

「判決で"DV"という言葉は一度も使われませんでした。児童相談所の職員も震え上がらせるほど高圧的な夫から毎日のように威嚇され、追い詰められた精神状態で何ができるのでしょう。裁判長の『母としての非難は免れない』は、DVの実態を知らない人の言葉だと思いました」

母親へのDVを巡っては、母親の親族が2017年7月、一家が当時暮らしていた沖縄県糸満市に相談している。公判でも、夫から女児への虐待を止めたことがあるか問われた母親はこう証言した。

「『これ以上やらないで』『通報する』と言ったが、胸ぐらをつかまれ、床に押し倒されて、馬乗りになってきて、苦しいと言うと、ひざ掛けを口の中に突っ込まれた」

判決では「夫の支配的な言動の強い影響で逆らうことは難しかった」と母親の置かれた状況に一定の理解を示した。

ところが、である。吉田さんは、DVと虐待の関連を解明できたのか疑問が残るというのだ。集会では、「母親が逮捕された時、DV被害から保護されている女性たちが一斉に体調を崩した」という報告もあった。"明日はわが身"とおびえるDV被害者。判決で「虐待を制止せず、夫に迎合した」と指弾された母親をあえて擁護するのはなぜか。吉田さんに尋ねた。

「私自身もDV被害者です。自分の生死が相手に握られるという極限の精神状態に陥り、善悪の判断基準を奪われていく。母親も初めは女児を守ろうとしています。暴力がおさまるのをじっと待つことで、生き延びることになると考えたのではないでしょうか」

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