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2019年9月 1日号
資産保有者の高齢化どう対応?銀行業界が注目の「金融老年学」
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「定年退職後に必要とされる金融資産について、『年金だけでは約2000万円が不足する』との試算が話題を集めましたが、高齢化と資産運用との関係で、いま銀行業界が注目しているのが金融ジェロントロジーです」(ある大手地銀の幹部)

「金融ジェロントロジー」とは聞き慣れない言葉だが、「金融老年学」と訳される経済学の新領域である。「医学、経済学、老年学(加齢に伴う心身や人間行動の変化に関する学問)などを組み合わせた複合領域研究と位置付けられています」(先の大手地銀幹部)という。特に銀行業界が注目しているのが、認知機能と資産運用の関係だ。

日本は世界で最も早いペースで高齢化が進む。2045年には女性の平均寿命が90・03歳、男性が83・66歳まで上昇すると予想され、65歳以上が全人口に占める割合は36%超まで高まると見られている。

同時に、高齢化に伴う心身の機能低下、とりわけ社会問題化しているのが認知機能の低下だ。厚生労働省の推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には高齢者の5人に1人、約700万人が認知症になると見られる。

認知症を発症した人への金融対応には成年後見制度があるが、選任された後見人を(原則)変更できず、また後見人に対する報酬が割高なため十分に活用されていないのが実情だ。「自身の認知機能の低下を十分に認識していない高齢の顧客も少なくない」(メガバンク幹部)。介護保険サービスの利用者は約604万人(17年度)にのぼるが、成年後見制度では利用者(被後見人)は約22万人(18年度)にとどまる。

約1800兆円の個人金融資産の7割弱を60歳以上が保有し、今後はその割合が高まるばかりだろう。資産保有者の高齢化と認知機能の低下にどう対応し、顧客目線の金融取引を維持していくのか。金融ジェロントロジーはその有力な手掛かりとなると期待されている。(森岡英樹)

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