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2019年7月28日号
統計不信 不都合な真実 もはや中国を嗤えない...
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▼アベノミクス"物価目標"2%どころか、現状も水増しの疑いアリ!

▼ネットショッピングは物価統計の対象外

▼調査票は手書き限定、旦那のこづかいも要記入という時代錯誤

日本政府の統計に疑念が高まっている。昨年末に発覚した厚生労働省の毎月勤労統計にからむ不正調査は記憶に新しい。しかし、不正でなくても不信感をもたれている統計は他にもある。金融業界出身の経済アナリスト、森永康平氏が"統計不信問題"を追及する。

「日本人はよく『中国の経済統計は正確性に欠け、当てにならない』と言うが、日本の経済統計は信用に値するのですかね」
来日していた台湾の投資家が4月、筆者にそう語った。念頭にあるのは毎月勤労統計の不正問題だ。この統計は〈賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的〉(厚労省ウェブサイト)とし、1923年に始まった。調査結果は国内総生産(GDP)の算出を含む多種の用途がある。まさしく〈国の重要な統計調査〉(同)にもかかわらず、同省が法令に反した調査手法を15年間も続けていたことに外国人投資家はあきれているのだ。
もちろん不正調査に怒っている人は国内にも大勢いる。不正調査によって、本来もらえる給付が減額されていたことが判明した。影響を受ける人は雇用保険、労災保険、船員保険の合計で延べ約2015万人、事業主向け助成金は同約30万件に上る(同省資料)。日本の就業者数は昨年平均で約6664万人。単純計算すれば、就業者の30%が巻き添えをくらったことになる。
金融業界には公的な統計や指標を分析し、経済の現状を明らかにしたり、将来の見通しを立てたりする専門家がいる。しかし、統計が不正確となれば、分析する意味がなくなってしまう。筆者は金融機関やシンクタンクのエコノミストら10人ほどが参加する月1回の勉強会の幹事をしている。統計不正が明らかになった後、参加者が最も関心を示すテーマはこの問題であることは間違いない。
統計不正問題が発覚してから半年以上経(た)った。ここでは不正の詳細には立ち入らず、別の問題を指摘したい。実は日本政府の統計には、不正とまではいえなくても、算出方法に不信感をもたれているものがいくつも存在しているのだ。代表的な例を取り上げよう。

◆消費者物価指数

まずは消費者物価指数(CPI)だ。安倍政権はアベノミクスの目標を「デフレ脱却」と喧伝(けんでん)してきた。それを受けて日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は「物価目標2%」を宣言したのはご存じのとおりだ(いまだ実現にほど遠いが)。CPIが正確であることは非常に重要ということがお分かりいただけるだろう。
しかし、その算出手法には問題がある。CPIは平たく言えば「国内で売られるモノやサービスの値段の平均値」のことだ。あらゆる値段を調べられればいいが、現実的には簡単ではないとして、普通の人々が買うであろう585品目を選んで集計している。問題はその品目の入れ替えが世の中の変化に追いついておらず、人々の消費実態を十分に反映していない疑いがあることだ。
分かりやすいところでは、インターネット通販サイトでの買い物。総務省統計局物価統計室に問い合わせたところ、「ネット通販の価格はCPIには一切反映できていない」とする。
国内販売額に占めるネット通販の割合は年々高まっている。経済産業省が5月公表した調査結果によれば、衣類、食料、家電といったモノについては、その割合が昨年6%を突破した。
しかも、それら3品目の購入額を調べた内閣府は、ネットを利用した世帯の支出金額は、利用しない世帯より少ないとしている(2018年度年次経済財政報告)。さらに日本銀行は同年のリポートで、〈インターネット通販の拡大は、既存の小売企業との競合関係が強まっているとみられる財を中心に、わが国の物価下押しに作用してきたことが示唆された〉と書く。要するに日本のCPIは実態より高く水増しされている疑いがあるのだ。

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