サンデー毎日

政治・社会
イチオシ
2019年1月20日号
どこよりも早い!選挙のプロが徹底分析 参院選124議席 衆参同日選「全予測」
loading...

▼潰えるか、安倍政権悲願の改憲スケジュール

▼自民は1人区「22勝10敗」も参院で単独過半数割れ

▼参院複数区は野党共倒れで自民「漁夫の利」も

2019年は、統一地方選、参院選が続く「政治決戦」の年である。12年ごとに二つの選挙が並ぶ「亥年選挙」は、自民党にとって鬼門。前回の07年は参院選で惨敗した。永田町で「衆参同日選」の臆測が飛び交う中、"選挙のプロ"の全予測をお届けする。

「消費増税を巡る姿勢こそ、安倍晋三首相の政治スタイルの典型。少子高齢化に備え、社会保障の財源として出発したが、今や骨抜きで、将来を見据えた政策が掘り崩されている。近代的理性とは、未来を予測して現在の行動を決める能力だが、それに欠けています」
昨年12月、安倍首相の母校・成蹊大の一室で、加藤節(たかし)名誉教授(政治哲学)がそう嘆いた。寒風が吹く中、キャンパスには授業を終え、家路に就く成蹊小学校の児童たちの姿があった。安倍首相の小さな後輩たちの未来を憂えるのである。
「現実を論じるとき、主語と述語で考えてみるといい。"現代日本"を主語にすると、もっとも的確にそれを示す述語は何か?」
そう問いかける加藤氏が、こう続ける。
「答えは"非合法性"。ルールを守らない風潮が瀰漫(びまん)している。森友・加計(かけ)学園問題、障害者雇用や外国人労働者問題など、官僚の世界では文書やデータの改ざんが隠ぺいされる。そうした状況を作り出したのは、消費増税を先送りし続けた安倍政治そのものです」
政府の2019年度予算案は、19年10月の消費増税に備えた経済対策に約2兆円が計上され、消費増税による増収見込み額(1・3兆円程度)を上回る大盤振る舞いだ。対策の目玉として、中小店舗でのキャッシュレス決済を5%ポイント還元するという制度まで飛び出した。
「ポイント還元を発案したのは、首相に近いとされる経済産業省で、将来のキャッシュレス社会をもくろんでいます。公明党が要求したプレミアム付き商品券も盛り込まれた。一体、何のための増税かわからない」
ベテラン政治ジャーナリストがそう憤る。財政健全化という増税の趣旨は見失われつつあり、選挙目当てのバラマキであることは明らかだ。確かに、今の安倍自民党は選挙に強い。衆院選は12年、14年、17年、参院選は13年、16年、統一地方選では15年と大型選挙で勝利し続けている。
「ここまで選挙に勝ち続けた政権は、第二次世界大戦後では初めて。野党崩壊の中、安倍1強が生まれた。ただ、日本社会の将来は明るくない。地方の衰退は進行し、人口減少は止まらず、貧富の差は広がるばかり。安倍政治には、この問題と真剣に取り組む姿勢は見られません。歴史が繰り返すことはあり得るのです」
そう話すのは60年近く日本政界をウオッチしてきた政治評論家の森田実氏。その「歴史」とは、12年前の出来事である。
07年の亥(い)年の参院選で、安倍首相率いる自民党は歴史的惨敗を喫した。改選1の1人区で6勝23敗と負け越し、改選64議席から37へと大幅減となったのだ。
「閣僚の失言や不祥事が相次いで参院選で惨敗すると、体調不良もあって安倍首相は退陣した。その後、衆参のねじれがのしかかり、2年後の衆院選で自民は大敗。民主党政権の誕生を許したのです」(森田氏)
昨年秋の総裁選で3選し、今年春には統一地方選、夏に参院選と政治日程は12年前とまったく重なる。果たして、安倍首相に再び悪夢は訪れるのか―。

◇京都は前原vs.福山の"代理戦争"

そこで本誌は、独自分析に定評がある選挙プランナーの三浦博史氏に、参院選124議席の行方を予測してもらった。1人区では野党候補の一本化は進むとしたが、比例では日本維新の会を除く野党統一名簿など一本化ができないという前提のシミュレーションだ。

まずは、参院で単独過半数を上回る124議席を有する自民党から見てみよう。改選議席では選挙区で38議席、比例で16議席を獲得し、非改選と合わせると14議席減の110議席で、単独過半数割れするという。三浦氏が解説する。
「自民は議席を減らしますが、公明は17年衆院選で議席を減らした危機感から、組織をフル回転させて3議席増やし、非改選と合わせると28議席と見ています。自民、公明の与党で138議席を獲得して過半数の123を上回り、各委員会で委員長を独占するのに必要な議席数である安定多数も実現する見通しです」
とはいえ、連携を模索する日本維新の会や希望の党が加わったとしても152議席で、安倍首相の悲願である改憲の発議に必要な3分の2、163議席には届かない。
一方の野党は、立憲民主党が選挙区、比例で計21議席を獲得し、非改選と合わせて12議席増の35議席となり、議席数では公明党を上回る。他の6党は横ばいで、非改選と合わせると国民民主党は増減ゼロの22議席、共産党は1減の13議席、日本維新の会は1増の12議席と予測した。
「野党が分裂している状況で、候補者調整が遅れている。選挙区では自民候補者の準備が進んでおり、野党が一本化したとしても厳しいでしょう。しかし、選挙区で自民候補者に投票したとしても、参院選は政党の人気投票の側面もあることから、比例では安倍批判票が立憲など野党に流れる可能性が高い」(三浦氏)
それでは各選挙区の情勢はどうか。32選挙区ある1人区。野党一本化が実現すれば、「自民党vs.野党候補」という一騎打ちの構図が成立する。直近の1人区の勝敗を見ると、自民党は13年が29勝2敗、16年は21勝11敗だった。19年の行方はどうなるのか。
「青森、岩手、山形、福島など東北で野党が優勢で、愛媛、長野でも野党に勢いがある。無所属候補を野党が推薦する大分、野党系候補である沖縄社会大衆党の沖縄、三重民主連合の三重でも、自民党は厳しい戦いとなりそうです」(同)
とはいえ、予測結果は自民党の「22勝10敗」。前回16年の参院選より、1勝上積みするとの見方である。
13選挙区ある複数人区はどうか。野党共闘に向けては、自由党の小沢一郎共同代表が積極的に動いているものの、立憲民主党の枝野幸男代表は複数人区で「野党第1党が立てない選択肢はあり得ない」と独自候補擁立の構えだ。
改選数が2から3に増える北海道は、高橋はるみ道知事が自民党から立候補を表明し、一躍注目選挙区となった。三浦氏が言う。
「自民が2人の擁立を決める中、立憲にも2人擁立を模索する動きがある。共産も含め、野党の票が割れると、自民が漁夫の利で2人当選という芽も出てくる。野党乱立で共倒れする可能性がある選挙区はほかにもあります」
既にもめ始めているのが京都(改選数2)。自民党と共産党の現職が立候補予定だが、国民民主党の前原誠司衆院議員と立憲民主党の福山哲郎幹事長による両党京都府連会長による"代理戦争"の様相を呈しているというのだ。
「国民が前原氏の元秘書、斎藤アレックス氏の擁立を決める中、立憲は経済評論家の勝間和代さんと同性パートナーであると公表したLGBT(性的少数者)支援に取り組む増原裕子(ひろこ)氏の擁立を後から発表した。京都は共産が強く、野党分裂を象徴する注目選挙区となりそうです。改選数が5から6に増える東京は、現職5人が立候補予定だが、複数の党が著名人の擁立を模索しており、波乱含みでしょう」(三浦氏)
改選数2の茨城や広島では、自民党が野党共倒れを見越し、2人擁立を目指す動きもあるが、野党の足並みが乱れたとしても、自民党は国政選挙で議席を減らすとの予測だ。
そこで永田町で囁(ささや)かれているのが、衆参同日選である。昨年は、森友・加計学園問題を巡る不誠実な答弁や、外国人材の受け入れを拡大する改正入管法の強行採決など、強引な国会運営が目立った安倍政権。昨年12月の報道各社の世論調査では、内閣支持率が軒並み下落した。『毎日新聞』によると、安倍内閣の支持率は昨年11月の調査から4ポイント減の37%。前出の森田氏がこう指摘する。
「安倍首相が衆院を解散し、ダブル選を仕掛ける可能性はある。昨年末から、衆院議員が政治資金パーティーを開き、解散総選挙に備える動きも出てきました」

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム