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2018年12月16日号
ザ・インサイダー フェイクニュースに殺された!駐大阪・台湾代表の悲憤
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9月14日早朝、日本を愛した台湾の庶民派外交官が自ら命を絶った。関西に巨大な爪痕を残した台風21号をきっかけに不可解な騒動が勃発し、追い詰められたのだ。駐大阪台湾代表はなぜ死ななければならなかったのか。徹底取材の先に見えてきた真相とは―。

台湾北部の新北市万里区にある墓地公園。黒潮が北上する東シナ海が一望でき、水平線の遥(はる)か先には沖縄の宮古群島が連なる。広大な敷地には海に向けて数千の大小の墓が整然と建ち並ぶ。一角には「アジアの歌姫」と称され、絶大な人気を誇ったテレサ・テンが眠る。近づくと中国語バージョンの歌声が流れ、生花は絶えることがない。
日本の大学院に在籍中の桜花さん(仮名=24)と一緒に台北から1時間強バスに揺られ、墓苑に辿(たど)り着いた。爽やかな潮風が吹く10月初旬、この地を訪れたのは、沖縄で庶民派外交官として慕われた台北駐大阪経済文化弁事処(領事館に相当)代表の蘇啓誠(そけいせい)氏(享年61)の弔いのためである。
長女である桜花さんの案内で墓苑の中ほどに建つ納骨堂に入った。1階には30人ほど収容できる式場が備えてある。桜花さんが静かに語り始めた。
「昨日、親族だけで納骨式を済ませました」
段々になった納骨棚の扉を桜花さんが開け、蘇氏と対面した。骨壺(こつつぼ)に印刷された写真が静かにほほ笑んでいる。脇に愛用の眼鏡と腕時計が添えてある。蘇氏の遺骨を前に、桜花さんとしばし佇(たたず)んだ。
「父は沖縄が本当に好きでした。(定年まで)もう少し待てば台湾と沖縄を行ったり来たりできたのに......」
大阪府内で蘇氏が自ら命を絶ったのは、9月14日早朝のことだった。台湾外交部(外務省に相当)が同日明らかにした。関係者によると、蘇氏は出勤時間になっても姿を現さず、不審に思った秘書が合鍵で官舎に入ったところ、変わり果てた姿で発見された。
9月上旬に上陸し、大阪府内を中心に甚大な被害をもたらした台風21号。蘇氏は当時、関西国際空港に多くの台湾人客が取り残されたトラブルの対応を巡って批判の矢面に突如立たされていた。蘇氏は官舎に遺書を残していたが、桜花さんら遺族はその内容を一切明かさず、外交部にも見せていない。
いったい蘇氏はなぜ自殺に追い込まれたのか―。その事情や一連の経緯を取材するにつれ、無念さと不可解さが募ってきた。

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