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2018年9月16日号
何でもあり!カウントダウン総裁選 安倍首相「9条改憲」大暴走の結末
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倉重篤郎のサンデー時評

▼野放しの「モリ・カケ不信」

▼公明党「不気味な壁」

違和感だらけの総裁選。岸田文雄氏の不出馬、メディアへの「公正」強要、そして安倍首相の9条改憲発言だ。拙速な改憲は最大の愚策と言い切る「サンデー時評」倉重篤郎が、たとえ3選となっても「安倍改憲案」が実現困難である理由を、多方向から掘り下げる。

この総裁選、三つの違和感がぬぐえないでいる。
一つは、もう旧聞に属するが、岸田文雄氏の不出馬である。派閥の大半が主戦論で、彼に派閥を譲り渡した古賀誠氏、参院ドンの青木幹雄氏ら自民長老らも出馬を説得していた。
岸田氏出馬となれば、野田聖子氏にも推薦人確保の芽が生まれ、自民党は久しぶりに三つどもえ、四つどもえの本格的総裁選を演出できた。政策論的にも、森喜朗政権以来18年も続いた清和会主導の国権主義的政治に対し、宏池会的リベラリズムが対抗軸としてあることを示す好機となった。安倍1強不信も払拭(ふっしょく)、党勢を底上げしたはずである。来年選挙の参院には特にその期待感が強かった。
逆にそれを嫌ったのが安倍陣営だ。展開によっては2、3位連合、下手すると2、3、4位連合が組まれ、党員投票の結果次第で不利な情勢に追い込まれる可能性がある。ここから陣営の対岸田圧力路線が展開された。安倍氏が岸田氏に何度も会い、何事かをささやいた。派閥に冷や飯を食わせるという鞭(むち)と、安倍の後は岸田だという飴(あめ)であろう。
3年前の総裁選で安倍陣営は野田聖子氏の20人の推薦者集めに圧力をかけ無投票当選した。集団的自衛権行使一部容認を中身とした新安保法制を成立させるうえで、党内亀裂を嫌った。今回、それに代わるものは憲法9条改正であろう。古賀氏を筆頭に9条護持派の多い宏池会との論戦を避けたかった。
安倍陣営のこの権柄ずくなやり口もさることながら、これに涙目で屈する岸田氏という人物にも落胆した。
二つ目の違和感は、またもやという感の「公平・公正な報道」要請である。振り返れば、2014年の衆院選挙の時も自民党筆頭副幹事長名で「選挙での公平中立」を求める文書が在京キー局に送りつけられたことがある。この政権の体質か。メディア操作をしたがる。
そんなことより、石破茂氏と公開討論する場をもっと確保すべきだ。むしろそのためにメディアの協力を願うべきではないのか。一私党の選挙ではない。日本国の舵(かじ)取りを決める場だ。
今一つの違和感は、安倍氏の9条改憲発言である。
8月12日に地元・山口県下関市で行われた『産経新聞』系長州「正論」懇話会の講演で「自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう、取りまとめを加速すべきだ」と述べ、秋の臨時国会に憲法改正案を提出する考えを示した、と報道された。安倍陣営としては、総裁選では石破氏を完膚なきまでに打ちのめし、憲法9条"安倍改憲案"を自民党案として権威付けし、その勢いを借りて極力早期の発議、国民投票につなげようという戦略だから、それに沿った発言ではあるのだろう。
ただ、それは国会での憲法改正をめぐる議論の実態からはかなり乖離(かいり)した発言であった。というのも、先の通常国会では衆参両院憲法審査会での議論がほとんど進まなかったからである。
確かに自民党は3月下旬に9条、緊急事態、合区解消、教育無償化という4分野での改正条文案をまとめて発表した。ただ、これは取りあえず与野党の政党間協議の素材として出すことだけを了解してもらったもので、「条文イメージのたたき台のさらにその素案」(関係者)が実態で、党総務会も通っていなかった。
しかも、肝心の与野党間協議は表舞台の憲法審査会の場でたったの1回も行われなかった。森友・加計(かけ)問題で財務省の決裁文書改ざん問題が表面化、これが政局化し、与野党間で憲法審査をするという空気にはならなかった。その結果、野党も本来は賛成であった国民投票法の一部改正案ですら、延長国会の最終局面で提案理由説明をしたところで終わったのである。
ということもあり、秋の臨時国会ではせめてこの一部改正案だけは成立させ、衆参両院の憲法審査会の場を正常化、来年の通常国会につなげる、というのが与野党関係者の相場観であった。その雰囲気は与党関係者から安倍氏にも伝えられていたはずである。
にもかかわらずの安倍氏の強気発言だった。3選の名分として9条改憲が必要なのはわかるとしても、下手をすると公約違反と指弾され、自ら政局の火種を作る危険な発言でもあった。

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