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2020年10月18日号
北朝鮮 黄海海上で韓国公務員を射殺 金委員長「謝罪」も見えぬ真相
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黄海の海上を南北にわける北方限界線付近で9月24日、韓国の海洋水産省の公務員が失踪し、北朝鮮軍が射殺して海上で遺体を焼いたという事件が明るみに出た。

翌25日には、朝鮮労働党統一戦線部からの通知文を受け取ったことを韓国大統領府が発表した。これには北朝鮮側による事件の経緯が説明されており、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「文在寅(ムン・ジェイン)大統領と南側の同胞に大きな失望感を与えたことを非常に申し訳なく思う」とした文言があったという。

北朝鮮の最高指導者が韓国とかかわる事件でこれほど早く、かつ「申し訳ない」との表現で伝えるのは異例とも言える。特に今回は、11月の米大統領選前に南北関係を騒がせたくないという思惑があるとの分析が一般的だ。

ただ、日本からは見えにくいが、実は北朝鮮には「普通の国」になろうという強い方針がある。世界でも異様な社会主義国、独裁国というイメージを払拭(ふっしょく)し「他国と同様の普通の国として見られるように行動していく」という意味だ。したがって、同じ民族の国家で死者が出たほどの事件に、哀悼や謝罪の意を込めた言葉を伝えるのは、普通の国になるという方針から出されたものと考えれば、それほど不思議なことではない。

とはいえ、9月27日には朝鮮中央通信が、遺体の捜索中に北朝鮮領海に入るようなことがあれば「新たな緊張を誘発しかねない侵犯行為」と警告した。金委員長の「謝罪」の通知文と、公式発表といえる朝鮮中央通信が報じた「警告」の姿勢の差は異常だ。

しかも、この事件は、海上で焼いたという遺体も、「焼いたのは浮遊物だけ」と北朝鮮は主張している。また、公務員は亡命しようとしていたと韓国政府は発表したが、今度は公務員の兄が「そうではない」と反論するなど、それぞれの主張がいちいち食い違う。前出の通知文自体の真偽も韓国の野党側から疑われるなど、真相が見えない事件になってきている。

(浅川新介)

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