牧太郎の青い空白い雲/947
昭和19(1944)年生まれ、79歳の当方、「ヤクザ」という言葉を知ったのは石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」(1957年)だったような気がする。
〈俺(おい)らはドラマー やくざなドラマー〜〉(作詞:井上梅次 作曲:大森盛太郎)。当時「ヤクザ」はカッコいい言葉だった。すぐ「ヤクザ」なるものが組長を親分、組員を兄弟と呼ぶ「怖い集団」であることを知ったのだが、町内に住む「××一家」の面々はそれほど「恐ろしい人」ではなかった。
その頃のことだ。警察は「賭博を資金源とする博徒」「露天商を資金源とする的屋」、それに、戦後の混乱期に生まれた若者集団「愚連隊」を一緒にして「暴力団」と呼び、メディアも「ヤクザ」と言わず「暴力団」を使うようになった。町内の「××一家」も「広域暴力団〇〇会××一家」と呼ばれるようになった。誰が発案したのか? それは分からないが、「暴力団」というネーミングは見事だった。
「暴力団」と言われだけで、ヤクザ者は世間から敬遠され、反社会的行為は次々と摘発された。
1992年に「暴力団対策法」が施行され、彼らは公の場で活動がしづらくなり、堂々と組の看板を出して事務所を開くことが難しくなった。2000年代に入ると、全国の自治体が(警察のアドバイスで)暴力団排除条例を制定。暴力団の構成員と判明した人物は電力・都市ガス・水道の使用契約、公営住宅への入居や同居、生活保護や児童扶養手当の受給、銀行口座の開設、クレジットカード作成、融資の契約などが(地域などによっては)難しくなった。
「暴力団構成員」はマトモな市民生活ができないのだ。
5月初旬、ヤクザの親分が「弟のETCカード」を使用したカドで、大阪地裁から懲役10月の判決を受けた。六代目山口組の直系団体「秋良(あきら)連合会」の会長・金東力被告とその運転手は、2022年11~12月、金東力被告の弟(暴力団員ではない)の名義のETCカードを挿入した車に乗り、阪神高速道路を2回通行。合計で1400円のETC割引の適用を受けた。それが「電子計算機使用詐欺罪」に問われたのだ。
不正通行というわけだが、親族間でのETCカードの貸し借りは世間でも行われているのではないか? めちゃくちゃな判決!と僕は思う。憲法第22条第1項は「居住、移転及び職業選択の自由」を定めている。高速道路を走る自由は、公共の道路を日常的に通れるのと同じように「移転の自由」。この権利は暴力団員であっても保障されていいはずだ。ヤクザにも基本的人権はある。
そういえば、あの「嵐を呼ぶ男」の歌詞、2010年に、舘ひろしは「やくざな〜」を「やんちゃな〜」に変えて歌った。ヤクザにとって、まるで氷河期である。