牧太郎の青い空白い雲/965
競馬発祥の国・イギリスで「前代未聞の出来事」が起こった。
10月28日、レスター競馬場で行われた「芝1400㍍の大レース」。スタートから先頭に立ったマシュー・スレイター騎乗のブラッファーオンザバス(牝3歳)は、最後の直線で後続に10馬身近くの差をつけた。
騎手は軽く手綱をしごくだけで、残り50㍍を切ったあたりでは〝馬なり〟。馬の言いなりの「遅めのスピード」で流し始めた。
大楽勝! と誰もがそう思った。
ところが、である。3番手を追走していた若い騎手は諦めなかった。必死に追い続ける。すると、ゴール板手前で逃げ馬を差し切ってしまった。大々逆転である。
競馬場は大騒ぎになった。海外ファンからも「信じられない」「無能な騎手のせいで、またもや馬券を買った人が苦しむ」といった声が殺到した。
その結果、スレイター騎手は「1着になるはずの馬で、最高の順位を得るための合理的かつ許容される手段を取らなかった!」という理由で、28日間の騎乗停止処分を受けた。「油断騎乗」の罪は重い。
日本でも今年の春、金沢競馬で「直線大きく抜け出した馬が追わないまま後続の馬に差される」出来事があり、その時は「八百長では?」と話題になった。
どんな世界でも、注意を怠れば思わぬ「大失敗」を招く。油断は大敵!である。
衆院選で、議席を4倍に増やした国民民主党の玉木雄一郎代表は今や「政局の中心」。少数与党に追い込まれた自公が玉木さんに秋波を送る。
玉木さんは、テレビに出ずっぱりだが、「部分連合」と報じられたり......。どうやら、神様の中でも最上位の「阿迦尼吒天(あかにだてん)」になったような気分?「有頂天」である。
確かに玉木さんはなかなかの逸材。とはいっても、都知事選で2位になった石丸伸二・前安芸高田市長の「ネット戦術」を真似(まね)て、成功しただけ。「手取りを増やす」という言葉を巧みに使った「優秀な販売係長」のように見えて仕方ない(笑)。
所得税の基礎控除と給与所得控除の合計を103万円から178万円に引き上げることを最優先事項!と主張して、今や競馬で言えば「独走」態勢?
しかし「本命馬・自民党」はそれほど甘くはない。
日本維新の会は岸田政権時の今年5月、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の見直しについて自民と合意文書を交わしたが、あっさり反故(ほご)にされた。
玉木さん、ご存じのように政治の世界は「裏切り」の連続? 先頭に立っている!と思っていたら、実は「最下位だった」......なんてことも。
あえて「油断大敵!」と申し上げたい。
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある