牧太郎の青い空白い雲/806
『週刊文春』が「世の中」を動かしている。この週刊誌にスキャンダルを暴かれると、どんな「権力者」もアタフタする。小気味よい。
でも、2月18日発売の
「髙橋大輔『キス強要』橋本聖子はセクハラ常習犯」
というスクープはどうだろうか?
2014年2月開催のソチ冬季五輪。日本代表選手団団長だった橋本さんは閉会式後に開かれた打ち上げパーティーで、フィギュアスケート選手の髙橋大輔さんに抱き付きキスをした! ともかく「埃(ほこり)を被(かぶ)った古い話」だ(週刊文春はこの年の8月28日号で既に報じている)。
「無理チュー」かどうか分からないが、お酒も入って「キス&ハグ」をして盛り上がっただけじゃないか?
その昔、国会キス事件なるものが起こった。1948年12月13日、時の大蔵大臣・泉山三六さんは参議院食堂で酒を飲み過ぎ、山下春江議員に抱きつき、松尾トシ子議員の手を握ってキスを求めた?
懲罰委員会で山下議員は「逃げようともがいて左アゴに嚙(か)み付かれた」と証言。悪質なセクハラ事件である(泉山蔵相は吉田茂首相に進退伺を出し辞任)。
この国会キス事件で新聞は著名人に「意見」を求めたのだが、一人だけ「別にいいんじゃない」と答えた女性がいた。女剣劇のスター、故・浅香光代さんである。
『婦人公論』(2014年2月7日号)のインタビュー記事「大物政治家との隠し子はあたしの『瞼の息子』です」(聞き手・水口義朗氏)で、浅香さん自身が明らかにしているのだが、この「別にいいんじゃない」発言が彼女の人生の「分かれ道」になる。
浅香さんの「キス擁護発言」に喜んだ泉山さんは彼女を料亭のお座敷に呼ぶようになる。「先生は、酔うと胸はつかむわ、お尻を触るわ......ああこれじゃ何を言われても仕方ない」と浅香さんはびっくりするのだが......その後、浅香さんは「助平なおじさん」泉山さんから「運命の男性」を紹介される。新鋭政治家Sさんである。
Sさんは優しかった。舞台で怪我(けが)をした時「そんな足で無理して帰ることはない」と言われ、Sさんと恋に落ちる。Sさんには奥さんがいたが、浅香さんは2人の子供を産んだ。
そして、壮絶な人生が彼女を待っていた。
どうでもいい「橋本聖子キス事件」を読まされて、浅香さんのことを思い出してしまった。
昨年暮れ、浅香さんが92歳で亡くなった時、大物政治家って誰なの?と話題になったが......「やはり野に置け蓮華草」という名文句を残した「あの超大物」とだけ言っておこう。