サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2020年5月 3日号
満員電車は3密ではない!という御用学者が日本を「ペスト」に
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牧太郎の青い空白い雲/765

フランスの作家、アルベール・カミュの『ペスト』(1947年出版)がアチコチで売り切れになっている。

史上2番目の若さでノーベル文学賞を受賞したカミュはこの小説の中で、中世ヨーロッパで人口の3割以上が死亡した疫病「ペスト」を取り巻く「不条理」を描いたのだが......これが「新型コロナ」に右往左往している今の世界と〝瓜(うり)二つ〟なのだ。

主人公の医師、リウーはある日、階段でつまずいて、ネズミの死体に気づく。そのうちに、元気な人間が原因不明の感染病で次々に死ぬ。

〝専門家会議〟で、リウーは「ネズミが媒介するペスト菌により起きたもの」と主張するのだが、大部分の専門家は曖昧で「真相」を隠そうとする。町はパニックになり......この導入部が今の日本とよく似ている。

日本の専門家は「積極的に検査をするべきではない!」と実態を隠そうとする。

真っ赤な噓(うそ)もある。

政府が緊急事態宣言を発効した当日の朝、多くの場所で満員電車は「普段と同じ」だった。

所謂(いわゆる)「3密」状態。換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接な場所。その「3密」の重なり合う所へ行くな!満員電車は「3密」の巣窟?なのに専門家会議は、「電車内では声を出して話す人が少なく、鉄道各社が窓を開けるなどの措置を実施しているため、3条件すべてに該当するわけではない」と言い張るのだ。

まるで、中世ヨーロッパの「ペスト」専門家会議と同じ「不条理」が罷(まか)り通っている。

実は、コロナ戦の先頭にいる?小池都知事にとって「満員電車」には触れたくない〝過去〟があるのだ。

4年前の都知事選。小池さんを圧勝に導いた目玉政策は「満員電車の解消」だった。通勤・通学時に満員電車に乗ることは極度のストレス。学校や会社に到着する前に疲労困憊(こんぱい)!なんてこともある。「満員電車ゼロ!」は都民の支持を得た。

小池さんは「2階建て電車を走らせる」と言っていた。実は小池新都知事が提唱する以前から、JR東日本は2階建て電車を運行していた。215系だ。ところが、両先頭車を除いてオール2階建ての車両のため、1両にドアが二つしか設置できない。そうなると、乗り降りに時間が掛かり、遅延が続発。かえって混雑は激化し小池構想は消えた。

御用学者の一部が、政治家に忖度(そんたく)して「メチャクチャな提言」をする。まるで名作『ペスト』の不条理な世界を見るようではないか?

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