サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2019年7月 7日号
「老後2000万円」より"就職氷河期"の無年金が怖い!
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牧太郎の青い空白い雲/724

もともと「年金」は不平等だ。「早死にした人」が払った保険料を「長生きした人」が好き勝手に使う。「不平等」の最たるものではあるまいか?

「不平等」であっても許されるのは、年金は「保険」だからだ。年金は「福祉」とはいくぶん、違う。福祉は「平等な社会」を作るために税金を使う。「平等」が理想である。福祉と違って、年金は「保険」だから(結果として)「不平等」になるのが前提なのだ。
だから世代の違いで、多くもらった人も、損をする人も出る。それは仕方がない。
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老後資金は2000万円不足―「年金」は大丈夫か?世間は大騒ぎしている。
「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯をモデルにすると、年金だけだと、毎月の赤字額は約5万円。この状態が30年続けば、総額2000万円が不足する」と金融庁が報告した。
「こんなもんだろう」と僕は思っていた。医療費がカウントされていないから、本当のところ、3500万円ぐらい不足になる。
まあ、その時になったら「野垂れ死に」しかないだろう。人生は「不平等」だから、悲しみも喜びも存在する!と思っているから、このくらいの「年金の不平等」、これから起こる「年金の限界」には驚かない。
麻生太郎金融担当相は「年金の破綻」を追及されて、慌てて「報告書を受け取らない」と言ってみたり......ドタバタしているが、もともと年金は不平等な制度。「優雅な老後」を期待する方がおかしい。
「年金100年安心プラン」なるものを推進した当時の小泉純一郎首相も、2004年5月31日の参院決算委員会で「公的年金だけで生活費をみるというものではありません」と言い切っている。
保険会社のセールスマンのような「言い分」だが、年金が「安心な老後」を保障するわけではない。
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「大騒ぎ」になるのを、頭脳明晰(めいせき)なお役人が予想しないはずはない。予想しながら、なぜ、金融庁(財務省の手下?)は今ごろ「老後の蓄え」を言い出したのか?
もちろん、狙いは消費増税にある。5、6月あたり、消費増税の是非が話題になると予想して、この時期に「老後2000万円不足」説を流す。世間は大騒ぎになるが、必ず「年金が危ないので消費増税が必要だ」という声が出てくる。世論操作である。
わざわざ「年金が危ないので金融商品をどうぞ!」と言って、専門家から「投資はもっと危ない」とバカにされる。
自分はバカにされても人々に「投資もダメなら、福祉のために消費増税はやむを得ない」と思わせれば大成功である。
こんな姑息(こそく)なことをしても、財務省は悲願の「消費増税」を実現したい。頭脳明晰なはずの財務官僚が、なぜか「消費増税」になると異常になる。デフレからの脱却が出来ないのに消費増税!なんて、世界の笑い者だ。
ダイヤモンド・オンライン4月5日付サイトによると、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は「不安出ずる国、日本の消費増税」という見出しの「社説」を掲載した。「日本は、経済成長の鈍化に直面する世界の多くの国々の仲間入りをしつつある。しかし、ある点において日本は異彩を放つ。安倍晋三首相は年内に消費税率を引き上げ、景気を悪化させると固く心に決めているように見えるのだ。(中略)自分で自分の首を絞めることになるだろう」と笑ってみせている。
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「老後2000万円不足」も確かに問題ではある。が、深刻なのは「低年金」「無年金」ではないだろうか?今、30~40歳代の「就職氷河期世代」の多くは非正規雇用。一階部分の国民年金にしか入れず、さらに未納!という人が圧倒的に多い。年金どころではない。まして、預金なんてできない。
最近の「引きこもり」関連の大事件の背景に「就職できない悩み」が隠されている。
就職氷河期世代を大量発生させたのは政治の責任である。景気低迷期にもかかわらず引き締め政策ばかりで、財政も金融もデフレ脱却の政策を打てなかった。若者は、正社員の採用を極端に絞り、一度、就職でつまずくと、即「人世の落伍(らくご)者」になってしまった。
政治の怠慢が非正規雇用を増やし、無年金世代を作っているのだ。
消費増税を強行すれば、大不況がやってくる。非正規雇用ばかりになる。
もう一度、言う。消費増税は凍結すべきだ!

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