サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2019年6月16日号
「パパ活」のはずが「風俗」に堕ちる「貧困女子」たち
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牧太郎の青い空白い雲/721

恥ずかしながら「パパ活」という言葉を知らなかった。
つい最近のことである。旅先の名古屋の繁華街、錦の居酒屋。浜焼きが人気というこの店、いやに"中年男と女子大生"といった案配のカップルが目立つ。
いわゆる「同伴出勤」かな?と思った。高級クラブのホステスが男性客を連れ出し、夕飯を済ましてからクラブに出勤する。早い時間から、お客を"獲得"するには「客引き」よりも確実な方法だ。
店によっては「同伴デー」を設けたり、月に何回か「同伴」するノルマを課しているところもあるらしい。
でも、それにしては、女の子のファッションがなんとなく素人っぽい。
「ああ、あのカップルですか?アレは『パパ活』ですよ」と地元の方が説明してくれた。
「パパ活?って何ですか?」
「東京でも流行(はや)っているんでしょ?要するに"肉体関係なしで、お金に余裕のある年上男性とデートして、小遣いをもらう活動"―ですよ。"あしながおじさん"的なイメージもありますけど......。『パパ活』はテレビドラマにもなっているんですよ」
知らなかった。
それにしても、カラダの関係がなく、デートをするだけで金銭的支援を受けるなんて......そんなことが可能なのか?
「まあ、事実上の援助交際ですよ。いつか、彼女たちは売買春に堕(お)ちてしまう」
そう考えるのが普通だろう。
   ×  ×  ×
『東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓(つまず)いたのか』(中村淳彦著、東洋経済新報社)という本を読んだ。著者は20年以上、AV女優や風俗嬢の取材をしてきたというノンフィクションライター。著者は2000年代半ばから「もしかして日本はおかしくなっているのではないか?」と違和感を抱くようになったという。
というのも、以前は、自分のあられもない姿の映像を世間にさらけ出している!というAV女優は、月に100万円ぐらい稼いで、すぐ富裕層になったものだ。昨今は違う。「出演料が安すぎて、とても普通の生活ができない」と彼女たちは嘆く。そればかりではない。援助交際(売春)の代金も大幅に下落しているのだ。
その道も、需要・供給の割合が「価格」を決める。
要するに「カラダを売りたい」という女性が急増。その価格が急降下しているというのだ。
この本は、ごく普通の女性がなぜカラダを売るのか?その動機を細かくリポートしている。
例えば、介護福祉士という女性。国家資格を持つ専門家なのに、彼女の月収は手取り14万~16万円程度。低賃金だ。貧乏で貧乏で......生きていけない。
国立大に医学部の現役女子大生の場合は、「欲しいものを買うためのお金が必要だから、パパ活する」というのではない。実は、彼女の両親は非正規の共働き。世帯収入はせいぜい500万円程度。弟が2人いて、仕送りが期待できない。
アルバイトだけでは学費と生活費を賄うことができない。「パパ活」しか選択肢がない!というのだ。
   ×  ×  ×
東京私大教連の調査では、昨年度の親の仕送りは、調査開始以来、過去最低の8万3100円。入学費用の借り入れは自宅外通学者で平均238万円。年を追うごとに、大学生の経済状態は苦しくなっている。
大学を辞めるか?「パパ活」を続けるか?
貧乏な女子大生は悩んでいる。
今年1月、茨城県神栖(かみす)市内で、当時18歳の女子大生が他殺体で見つかった。容疑者として35歳の無職の男が死体遺棄容疑で逮捕された。でも、「2人の出会い」がまるで分からなかった。
なぜ、放課後、東京から茨城まで容疑者を訪ねたのか?それが謎だった。
しばらく経(た)って、2人は「パパ活」で出会っていたことが分かってきた。『週刊新潮』2月14日号などは十数万円、あるいは30万円の金銭トラブルが起きていたことを報じた。「パパ活」のトラブルであろう。
僕の見方だが「パパ活」は危険過ぎる。
今回の事件がそうであったかは分からない。ただ、「パパ活」の中には「春」の売買もあるだろう。
それにしても、貧困女子大生は自らの若さや性と引き換えにカネを得るところまで追い詰められているのか。若者の「貧困」はここまできているのに......政府は何をしているんだろう?

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