サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2019年2月10日号
香港人「靖国神社」建造物侵入事件"長期勾留"の謎?
loading...

牧太郎の青い空白い雲/704

昨年12月のことである。ある香港人らが東京・靖国神社の敷地内で、紙のようなものを燃やし、建造物侵入の容疑で警視庁に現行犯逮捕された。郭紹傑(かくしょうけつ)被告(55)ら2人で、郭被告は香港の民間団体「保釣(ほちょう)行動委員会(中国に尖閣諸島の領有権がある!と主張する団体)」のメンバー。「南京事件(1937年)の賠償を、日本政府は被害者に行っていない!」と主張していた。
日本では、この事件はほとんどニュースにならなかったのだが、香港のネットでは「この男は反中国活動家で、雨傘革命の先頭にいたのではないか?」などと話題になった。香港では「親中派」と「独立派」の対立が一段と激しくなっている証拠だろう。
ところが、である。年が開け、この「靖国神社・建造物侵入事件」は、例の「日産・ゴーン事件」との関係?で、俄然(がぜん)、注目されそうな気配なのだ。
   ×  ×  ×
もう少し、詳しく書こう。郭紹傑被告は昨年12月12日午前7時ごろ、靖国神社の神門と第二鳥居の間の石畳で「南京大虐殺を忘れるな! 日本の虐殺の責任を追及する」と中国語で書かれた横断幕を広げ、東條英機元首相の位牌を模した紙を燃やし、もう一人はそれを撮影していた。
守衛が取り押さえ、警視庁に引き渡した。この行為が「建造物侵入」という犯罪になるのか?は意見が分かれるが、いずれにしても「微罪」だろう。
にもかかわらず、郭被告は同26日に起訴され、その後も勾留が続いた。念のためだが「拘留」と「勾留」は刑事施設に身柄が拘束されるという意味では同じだが「拘留」は刑法で定められた刑罰、「勾留」は逮捕後、判決が確定するまでの間に、容疑者や被告の身柄を拘禁することで、両者の目的は全く違う(電話などで「こうりゅう」という言葉を聞いた際に取り違えないように、専門家の間では「拘留」を「てこうりゅう」、「勾留」を「かぎこうりゅう」と呼び、区別している)。
さて「長期勾留」に抗議して、郭紹傑被告は約100時間、絶食した。その結果、同27日、体調不良で検査のため病院に運ばれたりした。そして年が明けて1月中旬、保釈を請求したのだが......認められなかった。
それにしても、この程度の「微罪」で、1カ月以上も拘束されるのか?
日産前会長・カルロス・ゴーン被告の長期勾留を諸外国のメディアが批判。「人質司法」という言葉が使われ、その余波で、この「靖国神社侵入事件」も一部の外国メディアの間で注目されているのだ。
   ×  ×  ×
どちらかと言えば、日本のメディアは「人権」を軽視している。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設への抗議活動で、器物損壊罪などに問われた反対派リーダー、山城博治(やましろひろじ)氏が長期勾留された時も、主要メディアはほとんど報道しなかった。(山城氏は2016年に逮捕され、約5カ月間勾留された。この事件では、国連の作業部会が「恣意的な拘束に当たり、国際人権規約違反だ!」とする見解を日本政府に伝えている)
   ×  ×  ×
メディアだけではない。それ以上に、裁判所までが「人権」を軽視しているように見える。
裁判所は検察の「勾留請求」の95%以上をすんなり認めている。本来、裁判官の役目は検察をコントロールし、勾留が適切に行使されているか?を確めることだが、どうやら、検察をコントロールする責務を事実上、放棄している。
森友学園の籠池泰典・諄子の両氏は補助金詐欺事件で、実に10カ月、長期勾留された。のちに無罪が確定した元厚労事務次官の村木厚子氏も、虚偽有印公文書作成および行使の罪などを否認したことで5カ月以上も勾留された。
裁判所は、検察の「言いなり」なのだ。
再三書いているが、森友問題では「国有地売却不正」がバレると、公文書が改ざんされ、意図的に廃棄された。誰が見ても「背任」だ。誰が見ても「有印公文書変造」だ!「公用文書等毀棄(きき)」の罪だ! しかし、検察当局は財務省関係者38人を不起訴処分にした。
検察はどこかおかしい。これを放置する裁判所も、メディアも、国民も、どこか、おかしい。
もしかして「靖国神社・建造物侵入事件」の長期勾留は安倍政権はもちろん、中国政府に対する「忖度(そんたく)」だったりして......。
ゴーン事件より、深刻な「人質司法」ではあるまいか?

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム