サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2019年1月27日号
実は「安倍1強」ではなく「菅義偉1強」の恐怖?
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牧太郎の青い空白い雲/702

霞ケ関の辺り、年賀挨拶(あいさつ)の先々で「菅義偉1強」という言葉を聞いた。「悪法三兄弟を強引に成立させたのは間違いなく菅義偉官房長官だから」とある官僚が説明してくれた。
悪法三兄弟?
世論の反対を無視した「改正出入国管理法」、70年ぶりの抜本見直しで漁民を不安に陥れている「改正漁業法」、民営化で水道事業破綻のリスクをはらむ「改正水道法」......この悪法三兄弟は、どれもこれも菅官房長官の「強権」がなければ成立しなかった。
特に「改正入管法」。移民拡大を嫌う「安倍シンパ」が反対し、安倍晋三首相は「4月施行」に二の足を踏んでいたのだが、菅さんは強引に首相の背中を押した。
確かに、安倍3選以降、めぼしい政治ニュースは「官房長官発信」のように見える。
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「菅1強」説の背景には〈二階俊博・自民党幹事長の体力の衰え〉がある。二階さんは79歳。先月、インフルエンザで入院したようだが「体力の衰え」は隠せない。微妙に「菅→二階ライン」という政権の軸に変化が起こっている。「二階」無視のケースもあるらしい。それでなくても、安倍さんは外国を飛び回っている。だから官房長官は普段から「首相(の代理)」なのだ。
その菅さんは『神奈川新聞』のインタビューで「2019年は極めて重要な年。衆院解散は総理の専権事項で、発言は控えたい。しかし、いかなるときでも、常在戦場で体制を整えていることは政治に身をおくものとして当然だ」と話した。
普通なら「差し障り」のない発言と思われるのだが、今回は安倍首相がラジオに出演して「衆院解散は頭の片隅にもない」と言い切っている。「いかなるときでも常在戦場」という菅発言とは微妙に違う。自民党国会議員の多くが「ダブル選挙あり」と判断した。要するに官邸も、自民党内も気分は「菅1強」なのだ。
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「安倍」でも「菅」でもよい。どっちが「1強」であっても構わない。問題は......新しい年に「1強のツケ」がやって来ることである。
例えば「日銀のツケ」。諸外国の中央銀行は政府から独立している。予算も、金融政策に関わるメンバーの決定も、行政府や議会の了承がいらない。中央銀行が自ら指名・決定できる「専門家」が一定の数、政策委員に含まれている。時の政府に迎合する人物だけでは金融政策が歪(ゆが)められる可能性があるからだ。中央銀行に人事と予算の裁量権がなければ「独立」は保てない。
日本は違う。安倍政権は「アベノミクス」に反対する日銀総裁に圧力をかけ、任期満了前に退任に追い込み、後任に黒田東彦(はるひこ)氏を押し込んだ。審議委員もリフレ派ばかりにした。
日銀は「独立」どころか「官邸の出先機関」になった。紙幣を大量に印刷して株を買い占め、偽りの株式相場を支えてきた。それが、今年に入ってからの「株価の乱高下」である。化けの皮が剥(は)がれるのは時間の問題だ。
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「1強政治のツケ」はカネだけではない。民主主義の根幹である「三権分立」が崩れている。気に入った人物だけを裁判官に任命する。これでは「司法と行政の相互監視」が成り立たない。
例えば、あの森友事件である。9億円の国有地が8億円も不当にダンピングされ、首相夫婦の「お友達」にカネ儲(もう)けさせた。そればかりではない。その「不正」がバレると、公文書が改ざんされ、意図的に廃棄された。誰が見ても「背任」だ。誰が見ても「有印公文書変造」だ!「公用文書等毀棄(きき)」の罪だ!
しかし、検察当局は財務省関係者38人を不起訴処分にした。地検まで「1強政治」の暴走に加担した。残念ながら、昨年は「1強政治」が権力者犯罪を平気で許す年になった。今年はそのツケが次々に現れる。
「安倍1強」「菅1強」を打破しないと、日本という国はこの先、破綻するかもしれない。

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