サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2018年10月21日号
"相撲協会vs.貴乃花"の背景に安倍「村八分主義」あり!
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牧太郎の青い空白い雲/689

その昔、村落の中で、掟(おきて)や秩序を破った者に対する制裁行為として「村八分」があった。地域の住民が結束して「特定の個人」と交際を絶つ。共同絶交。究極の「いじめ」である。
例えば......。1950年、静岡県のある村で「替玉(かえだま)投票」が行われた。この地域では、戦後も「隣組」が維持され、公職選挙では「組長」が各家庭を訪問し「棄権するなら代わりに行ってくる」と言って半ば強制的に投票所入場券を回収。「棄権防止」という名目で替玉投票が行われていた。
これはおかしい!
村の中学生の一人が「××中学新聞」に替玉投票を告発する文章を載せた。ところが「隣組」の要請で、学校側は新聞を回収し全て焼却した。言論封殺である。
替玉投票は52年の選挙でも行われ、高校生になった生徒は朝日新聞の支局に「真相を調べてほしい」と手紙を出す。朝日新聞は替玉投票をスクープ。警察も動く。大騒ぎになった。
「学生なのだから、他人を罪に落として喜んだり、自分の村の恥をかかせることが良いことか悪いことかくらい分かるだろう」。それが村社会の多数意見だった。
生徒の家への「村八分」が始まった。田植えの季節、近所からの"手伝い"はなくなった。朝夕の挨拶(あいさつ)もない。「この生徒の奨学金支給を停止しろ!」という声まであがりはじめた。
新聞がこの「いじめ」の実態を次々に報道すると、全国に「村八分」という言葉が流行(はや)った。
小学2年生だったと思うが、当方、新聞を読んで母に「なぜ、八分なの?」と聞いた記憶がある。「葬式と火事だけは二分。残りの八分では仲間はずれにするんだ」と母は説明した。死体を放置すると腐臭が漂い疫病の原因になる。消火活動をしないと他の家へ延焼する。だから、この二分だけは一緒にやる―というわけだ。
残り八分......例えば成人式、結婚式、出産、病気の世話、新改築の手伝い、水害時の世話、年忌法要......全て「仲間はずれ」にする。「村八分」という言葉の「恐ろしい語源」を知ったのはしばらくたってからだ。
戦後間もないころ、日本では、あちこちに「村八分」が残っていたのだろう。何度か、新聞で「村八分」という言葉を見たことがあるが、時代が落ち着いてからは、とんと見かけなくなった。
   ×  ×  ×
ご存じ、相撲協会vs.貴乃花の大喧嘩(おおげんか)。どちらにも「言い分」はあるだろうが、昨今、貴乃花が年寄引退を選んだ背景に「相撲協会の村八分」を感じてならない。
全ての親方は五つある一門のいずれかに所属しなければいけない!という新ルール。これが理解できない。
貴乃花は白黒をはっきりさせる「性格」である。正義、不正義をはっきりさせたい!と思い込んでいる。でも、世の中、正義・不正義は"立場"で逆になる。「正義」ほどいいかげんなものはない。
だから「貴乃花も大人になってくれ!」と思った向きもあったろう。当方もその一人だった。しかし、今度だけは「相撲協会は汚い!」と思った。7月の理事会で決まった無所属禁止の新ルールは「貴乃花外し」がミエミエだからだ。
   ×  ×  ×
戦後70年余。「村八分」なんてなくなった!と思っていたが、そうでもない。最近、立て続けに起こる「アマチュアスポーツ界の不祥事」。その陰に「村八分」が見え隠れしている。
女子レスリング、ボクシング、体操......「××以外はダメ!」という「いじめ」があちこちに見える。それに反発する人が「乱」を起こして、騒動になる。「村八分」のような全体主義。これに異を唱える「個人主義」がぶつかる。
   ×  ×  ×
お手本になるはずの政治の世界はどうだろうか?
安倍1強政治が長引き「村八分主義」が大手を振っている。
先の自民党総裁選。安倍陣営は秘書などのスタッフを全国に派遣して"裏切り"が疑われる議員の動向を監視させた。集会への参加・不参加、電話作戦への力の入れ方......まるで戦前の「隣組」みたいな「締め付け」が行われた。
「カツカレー食い逃げ事件」をご存じだろうか?安倍陣営の出陣式でカツカレーを食べた議員数と、安倍晋三首相が獲得した議員票数が合わなかった。カツカレーを食べながら石破茂さんに投票したのは誰か?陣営は「食い逃げ犯」の捜査に夢中である。
内閣・自民党役員人事も「お友達」重視がさらに鮮明になった。
安倍さんの「村八分主義」が、この国のアチコチに伝播(でんぱ)しているのではあるまいか?
嫌な時代になってしまった。

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