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2020年5月 3日号
〔真山仁〕「夢の新薬」の落とし穴 人は安易に「再生医療」に近づきすぎていないか 初の医療サスペンス『神域』
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現代社会が抱えるさまざまな問題に斬り込む小説家・真山仁さん。最新刊『神域』は、世界中がしのぎを削る再生医療をテーマに、バイオビジネスのリアルな現場を描き出した。本作に挑んだ「想い」を聞いた。

――物語は東北の民間研究所で、アルツハイマー病を治す人工万能幹細胞「フェニックス7」が産声を上げた場面から始まる。この〝奇跡の細胞〟が治験を経て、再生医療に使われる日を夢みて、研究者、実業家、政府関係者などさまざまな思惑が交錯する。真山さんが初めて医療を軸に話を展開しようと思い至ったのは?

研究分野の中でも昨今、特に世間の耳目を集めているのが再生医療です。iPS細胞を開発した山中伸弥さんが2012年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。日本の研究者が世界的に認められるのは素晴らしいこと。しかし、以降、こうした再生医療の研究成果が取り上げられるたび、これで難病患者の多くが救われるという声を聞くようになった。病を抱えた人にとって再生医療がいかに希望の星であるかは分かりますが、医療に役立てるのが当然だと疑いもしない姿勢で果たしていいのだろうか、何か見落としてはいないかと拭いきれない違和感が残りました。医学の世界では治験を繰り返し、問題がなければ躊躇(ちゅうちょ)なく実用に向かう。しかし、生命科学者に話を聞いてみると、異を唱える人が少なくない。細胞が初期化する仕組みは解明されているけれど、理由は分かっていない。その段階で肝臓や膵臓(すいぞう)に移植するなど考えられないという。

私は、医学は魔法ではないと考えています。人間はさまざまな免疫や再生能力を持っている。しかし、老いていけば、病にも罹(かか)り、やがて寿命がくる。その自然の摂理に西洋医学の力で抗(あらが)うのは、癌(がん)細胞を切り取るくらいまでが倫理的な限界ではないか。不老不死を求め、それに役立つ医療行為なら、疑問も抱かず手放しで認める世の中の風潮に警鐘を鳴らしたい。そんなことを考えているうちに再生医療を小説で書くことが形になっていきました。

――「フェニックス7」はアルツハイマーの特効細胞として脚光を浴びる。高齢者の7人に1人が罹るとされているこの病とどう向き合っていくか。高齢化社会に生きるうえで、多くの人が直面するであろう問題だ。作中では、研究者の祖母や警部補の親などを通して、リアルにその様子が描かれている。アルツハイマーにかかわる脳の問題について取り上げたことは、真山さんにとってどんな意味があったのか。

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