藤井聡太8冠(21)を止める者は現れるのか?
将棋の8大タイトルの一つ、叡王戦五番勝負の挑戦者は伊藤匠七段(21)。藤井が先勝し、伊藤が2連勝した後、第4局で藤井がタイに戻し、2勝2敗の大接戦になっている。
藤井の防衛戦に挑んだ棋士で2勝以上したのは昨年、王将戦に登場した羽生善治九段(53)=永世7冠資格・日本将棋連盟会長=だけだ。
昨年10月に王座を獲得して「8冠独占」を達成した藤井は、1996年に羽生が7冠(当時は全冠)を維持した期間(5カ月)を抜いている。他方、6月6日からは棋聖戦五番勝負の防衛戦も始まり、15年ぶりにタイトル戦に登場した挑戦者の山崎隆之八段(43)に藤井は先勝している。
棋聖位は4年前に藤井が17歳で初めて獲得したタイトル。防衛すれば通算5期の条件を早くも満たし、永世棋聖の資格を得る。大棋士が年月をかけて達成してきた永世称号を21歳で獲得しかけているとは、信じられない。
さて「同学年対決」の叡王戦。小学生の全国大会で対戦し、伊藤少年に敗れた藤井少年が号泣した逸話は有名だが、伊藤本人は「よく覚えていない」とか。
名人戦の順位戦ではB級2組への昇級を決めているが、C級1組の時からタイトル戦に躍り出た伊藤。昨秋はいきなり竜王戦、今年に入り棋王戦で藤井に挑んだ。引き分け(持将棋)が1局あったものの1勝もできなかった。ところが叡王戦では、藤井を初めて追い込んだ。
東京都世田谷区の「三軒茶屋将棋教室」で伊藤を育てた宮田利男八段(71)は「おとなしい少年でしたが芯が強かった。小学生の時、奨励会の申込書に私の署名を求めた時、『名人や竜王になって賞金を半分よこすなら書いてやる』と言ったら、『はい、わかりました』ときっぱり答えました」と振り返る。
「匠は子供の頃、ぽっちゃりした可愛い顔をしていたのに、次第に細面になって声変わりしてオッサンっぽくなった」と笑いつつ、「(叡王戦の)第4局では勝ち目はなかったがよく粘った。もう将棋で教えることもアドバイスもない。頑張ってほしいだけ」とエールを送る。
さらに、「強すぎて勘違いする人もいますが、いつまでも藤井さんが8冠のままなんてあり得ません」とも語る。
果たして王者の8冠独占を崩す一番手は愛弟子か。注目の決戦は6月20日に甲府市で火ぶたを切る。
(粟野仁雄)