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2023年4月16日号
社会 藤井聡太が最年少記録に挑む 名人戦七番勝負「4・5」開幕
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 将棋ファンにとっての「夢の対決」は終わったが、今度は藤井聡太六冠(20)にとっての新たな「夢の対決」が始まる。王将戦七番勝負で「永世七冠」の羽生善治九段(52)を対戦成績4勝2敗で退け、初防衛に成功した藤井六冠は4月5日に開幕する第81期名人戦七番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催、大和証券グループ協賛)で、いよいよ最年少名人をかけて渡辺明名人(38)に挑む。

 竜王を11期、棋王を10期も獲得し、両タイトルの永世称号も得ている渡辺名人が、悲願のタイトルを手にしたのは当時の豊島将之名人(32)=現九段=を破った2020年だった。名人は通算5期で永世称号が獲得できる。戦前から戦後にかけて活躍した木村義雄十四世名人(故人)以来7人目の永世名人を目指すには、3連覇中の渡辺名人にとっても負けられない。

 棋戦は日本将棋連盟と主催社の契約金額順で序列があり、近年は竜王戦がそのトップに位置づけられている。だが、人にもよるのかもしれないが、将棋の代名詞は何と言っても名人だろう。竜王戦はかつての十段戦を1988年に解消・発展させた。これに対し、35年に創設された名人戦は最初のタイトル戦としての伝統がある。1局を2日制で戦い、各棋士の持ち時間は9時間と最も長い。

 藤井六冠は王将戦七番勝負で羽生九段を破り、渡辺棋王との棋王戦五番勝負にも勝って史上最年少6冠となった。さらに、渡辺名人への挑戦者を決める名人戦A級順位戦は、星数で並んだ広瀬章人八段(36)とのプレーオフを制して初めて挑戦権を獲得した。ファンからは「史上最年少名人」の期待もかかる。

 ただ、名人挑戦権獲得の最年少記録保持者は「ヒフミン」こと加藤一二三九段(83)の20歳3カ月で、これは藤井六冠も破れなかった。加藤九段は60年に大山康晴十五世名人(故人)に跳ね返され、悲願を果たしたのは中原誠十六世名人(75)を破った82年で、既に42歳になっていた。

 そして、その加藤九段を翌83年に破ったのが、当時21歳2カ月だった谷川浩司十七世名人(60)。これが今回、藤井六冠が挑む名人位獲得の最年少記録だ。

 正直な性格の谷川十七世は2年前、筆者の取材に「僕の記録も、もうそれくらいしかないから藤井さんに更新されたら、ちょっと寂しくなるかもしれません」と話した。しかし、原則は引退後に名乗る永世名人の称号。これを将棋界への長年にわたる多大な貢献が評価され、昨年から名乗ることが許された谷川十七世は最近「抜かれるのは楽しみ」と話しているそうだ。

 筆者にとって最も印象深かった名人戦は75年だ。大内延介九段(故人)が中原十六世に挑んだが、3勝3敗で迎えた第7局は互いが入玉して持将棋(引き分け)となり、第8局の末に大内九段が敗れた歴史的名勝負である。当時の中原十六世は名人戦3連覇中と強すぎ、判官びいきもあって大内九段を応援していた。

 前述の加藤九段と中原十六世の名人戦も大激戦だった。今回もそんな名勝負を期待したいが、直近の棋王戦五番勝負で渡辺名人は藤井六冠から1勝しただけで、公式戦の対戦成績も大きく負け越している。一方、藤井六冠も敗れれば次回の名人挑戦は来年になるため最年少記録は消滅する。注目の大勝負は東京・椿山荘で始まる。

(粟野仁雄)

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