牧太郎の青い空白い雲/970
2024年5月13日、東京地裁は、ある経済産業省の元キャリア官僚に対し、「懲役10年」の判決を言い渡した。知人女性ら6人に対し、睡眠導入剤入りの飲み物を飲ませ、抵抗できない状態にして性的暴行を加えた「準強制性交罪」「準強制わいせつ罪」......。最も卑劣な犯罪である。
法廷で、この男は「自分で言うのもなんだが国際畑のホープと言われていた」「政治家や政府高官などから娘を紹介したいと言われた」などと誇らしげに話し、犯行については「下駄(げた)をはかせる感じで、1次会で終わる飲み会を2次会までいけたら、2次会の次に散歩など、その次の段階にいけることを期待した」。
下駄をはかせる感じでレイプ? 被害者は飲食店でトイレに行った時などに睡眠導入剤を入れられている。
「デートレイプドラッグ」と呼ばれる薬物を悪用した性犯罪は後を絶たない。クスリの影響で記憶が曖昧だったり、酒に酔った「私の失敗」だと思い込んだりして、多くの女性が泣き寝入りする。女性が警察に訴えても、その約7割は不起訴になってしまう。
事実、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、15年4月、当時の安倍晋三首相と親しい元TBSワシントン支局長の山口敬之さんから性的暴行を受けた!として被害届を出した時、警察署は準強姦(ごうかん)容疑で逮捕状を取ったが、警視庁刑事部長の指示で「逮捕状の執行」を見送ったこともある。
そんな中で、東京地裁が経産省の〝デートレイプドラッグ野郎〟に「懲役10年」の重い刑を選んだのは画期的だった。
もう一つ、「大阪地方検察庁のトップ・検事正だった北川健太郎被告が部下だった女性検事に性的暴行を加え、罪に問われている裁判」。「法の守護人」がレイプ事件である。初公判で「争うことはしません。被害を与えたことを反省し、謝罪したい」と被告は、性犯罪を全面的に認め「懲役5年?」が予想されていたのだが......。24年12月になって弁護人が突然、記者会見。「女性検事が抵抗できなかったことについては合理的な疑いがあり、同意があったと思っていたため、犯罪の故意がない」などとして、無罪を主張したのだ。
「この件を明らかにすれば検察が機能しなくなる」と北川被告に言われ、被害者は被害を受けてから約6年間、苦悶(くもん)した。だが、「法」を守る検事として「事実を明らかにする道」を選んだ。今、彼女はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、現在も休職している。
被告は一度犯行を認めたのに、今になって「同意があった」と言い出した? お上は「検察のトップが犯罪人では困る」と思ったのか?
裁判の行方は微妙だが......。当方は「高級官僚の悪事は許さない!」という気分だ。読者の皆さん!正義が守られる良いお年を!
..................................................................................................................
◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある