公立学校教員の給与を巡り、2025年度の予算編成で文部科学省と財務省の対立が深まっている。その要因は、教員に残業代を支払わない代わりに給料月額に上乗せする「教職調整額」の考え方だ。文科省は現行の4%から13%への増加を要望し、一方の財務省は業務削減を条件に段階的に10%まで引き上げる案を示している。両省とも教員の処遇改善を進めたいという目的こそ一致しているものの、その手段に大きな隔たりがある。
全国で課題となっている教員不足を解消するため、文科省は8月に発表した25年度予算の概算要求で勤務環境の改善を強く打ち出した。その柱となったのが、調整額の引き上げだ。
「残業代代わり」とも言われる調整額の根拠となっているのは教員給与特別措置法(給特法)。どれだけ残業しても調整額は4%で変わらないため、「定額働かせ放題」と批判され、教員のなり手不足を招いているという指摘もある。
なぜ13%なのか。この数字は、「10%以上とすることが必要だ」と結論付けた文科相の諮問機関・中央教育審議会の議論を踏まえており、さらに「教員の優遇分を復活させる」(文科省幹部)意図がある。
優遇分とは、1974年制定の人材確保法で、教員の待遇を一般公務員より優遇すると規定したことを指す。ただ、80年度に7・42%だった優遇分は行財政改革などに伴い2018~22年度の平均で0・35%に下がり、一般行政職の公務員とほぼ変わらない水準となっている。
支給割合を検討する中で、文科省は優遇分がどれくらい確保できるかという視点で試算を重ねた。調整額を12%まで引き上げても7・42%を超えず、13%だと優遇分が7・8%になり、そこが最低ラインになると判断したという。
これを一刀両断したのが、11月に示された財務省案だ。残業時間削減などを条件に5年程度かけて調整額を10%に段階的に引き上げるというもので、10%に達した後は調整額の制度を廃止し、残業代の支払いに移行することも検討するとした。教員定数の改善などには触れていない。
各省庁の制度設計に対して財務省が独自に対案を示すのは異例。財務省関係者は「文科省は働き方改革を進めてこなかった。対案は文科省には任せておけないという意思表示だ」と話す。
かつてない反応に驚いた文科省は、すぐさま「現場の努力のみで働き方改革を進めようとするものだ」と財務省案に反論。阿部俊子文科相も記者会見で「教員定数を改善せずに業務縮減を条件とするのは乱暴な議論だ」と批判した。
文科省と財務省が教員定数を巡って論戦を展開するのは見慣れた光景だが、財務省が調整額の廃止にまで言及するなど、例年よりも激しさを増している。両省は水面下で調整を続けており、年内に結論が出る見込みだ。
今後の教員の働き方を大きく左右する判断になることは間違いない。さて、軍配はどちらに上がるだろうか。
(伊澤拓也)