自民党の総裁選、その後に予想される解散総選挙を控え、地銀関係者が神経を尖(とが)らせている問題がある。自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟(郵活連)」(山口俊一会長)が、議員立法として国会提出を目指している「郵政民営化改正法案」だ。
「同法案の素案には、日本郵政グループの規制緩和策として、ゆうちょ銀行による銀行買収が可能となる措置が盛り込まれている」(地銀関係者)。郵政民営化改正法案は、日本郵政グループの政治組織「全国郵便局長会」の要望を受け、自民党議連が検討を進めている。「総選挙がちらつく中、郵政票を期待する自民党としても無視できないイシューとなっている」(メガバンク幹部)という。
議連が目指す改正は、日本郵政と日本郵便を合併させ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の株式を、日本郵政が一定の割合(3分の1超)で持ち続ける案が柱となっている。郵便局網維持のための基金をつくり、従来は成長投資にあててきた2社株の売却益の一部を積み立てる。維持コストが足りない場合の財政支援措置の規定も盛り込む。また、行政窓口などの公共サービスを郵便局が受託しやすくなるよう本業の一部に位置づけ、日本郵政への外資規制も検討する。
全国の郵便局網には年1兆円超の費用が投じられている。そのうち7000億円超は金融2社からの手数料などが元手だが、窓口の利用者が減った影響などで手数料が減少している。「改正案は、全国に約2万4000ある郵便局網の維持コストを捻出することに狙いがある。そのためには金融2社の完全民営化の撤回も辞さないということだ」(中央官庁幹部)。小泉純一郎元首相が主導した郵政民営化を事実上、反故(ほご)にする内容だ。
さらに、議連は郵政民営化法111条に規定されている「銀行保有の禁止」を解除することも視野に入れている。議連が法改正の基本方針としてまとめた「郵政関連法の改正に関する要綱案」には、111条の規定について、「銀行を子会社とすることについて、これを禁止する規定を適用しない」と明記している。「日本郵政が保有するゆうちょ銀行の株式(現在約6割を保有)を2分の1以上処分した後」との条件が付せられているが、「日本郵政が残り10%を追加売却すれば、銀行買収(子会社化)が可能」(地銀幹部)と危機感を募らせている。
ゆうちょ銀行は、貯金吸収力が高い一方、融資業務が規制されていたこともありノウハウが乏しい。銀行を買収し、子会社化すれば、そこを通じて融資業務を伸ばすことが可能となる。「巨額な資金力をバックに、融資業務に本格進出されれば脅威だ」(地銀幹部)とされる。
郵政民営化改正法案は、民間金融機関の猛反対に加え、当事者である日本郵政グループ内にも異論があり、素案からの後退、法案提出時期の先送りは避けられないが、流れそのものは変わらない。自民党総裁選では、小泉進次郎氏が立候補を表明している。父である小泉純一郎元首相の郵政民営化から約20年、因果は巡るかもしれない。
(森岡英樹)
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◇もりおか・ひでき
1957年生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大卒業後、経済紙記者、米コンサルタント会社を経て、2004年に独立