牧太郎の青い空白い雲/967
「ケイパー映画(caper film)」が好きだ。
ケイパーとは俗語で「犯罪」の意味。奇想天外の「得意技」を駆使して、プロの犯罪者集団が難攻不落の「大きな獲物」を狙う。その「得意技」の数々が愉快なのだ。
2004年のアメリカ映画「オーシャンズ12」(Ocean's Twelve)は4回も観た。主人公ダニー・オーシャン率いる犯罪スペシャリスト集団12人が大活躍するのだが......。一番の見どころは、パリの美術館からローマの美術館に移送される「ファベルジェの卵」という作品を盗もうとする場面。美術館の夜間セキュリティーは厳重すぎるため、彼らは昼間の展示を狙うことにして......。妊娠中!と偽り「女性のお腹(なか)」の中に隠した3Dホログラムと本物をすり替える。
この「奇策」は結局、失敗するのだが......。ドキドキ、ワクワク。「オーシャンズ」は多分、「怪人二十面相」「ルパン三世」と並ぶ〝ケイパー映画〟の傑作だろう。この映画を思い出したのは「大谷ボールの不安」を感じたからだ。
ドジャースの大谷翔平が史上初「50本塁打、50盗塁」を達成した時の本塁打ボールの展示が11月13日から、台湾で最も高いビル「台北101」(台北市)89階の展望台で始まった。特別展の名前は「夢想高飛(夢は高く飛ぶ)」。大盛況で日本からも多くファンが見学に行っているらしい(来年3月2日まで)。
439万2000㌦(約6億8000万円)でボールを落札した台湾の投資会社が無償で貸し出したものらしいが......もしかして、例の「オーシャンズ一味」が、この「大谷ボール」に目をつけたら?なんて思ったりする。
米大リーグ(MLB)の公式Xが投稿した画像を見ると......。高さ1㍍ほどの台の上に載せられたボール入りの透明ケース。仕切りの周りには黒いマスク、黒いスーツにネクタイ姿の4人の男性が立って「警備」している。隙(すき)はほとんど見当たらない。それでも「怪盗」は諦めない!ような気がする。
100年以上も前のことだが、こんな事件もあった。1911年8月21日、パリのルーブル美術館の大ギャラリーから「モナリザ」が消えた。月曜で休館日だったこの日未明、当時30歳だったイタリア人・ペルージャはルーブルに忍び込み、巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの名画「モナリザ」を額から外し、楽々と盗んでしまった。この人物、塗装職人で「ガラスケースの設置作業」に加わっていて、絵画の外し方を心得ていた。要するに、普通の人間が突然「怪盗」になるケースさえある。
一つのボールに、大金を投じた人物に違和感を持っている。「7億円あれば飢餓に苦しむ人を何十万人も助けられた」と思う。そのボールに「4人の警備員」が立つ光景。ちょっぴり複雑な思いで......。つい「義賊の登場」を予感した。
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある