阿木燿子の艶もたけなわ／311
着流し姿で「潮来（いたこ）笠」を歌った鮮烈なデビュー。トップアイドルの先駆け「御三家」の一人として活躍し、数々の国民的なヒット曲を放った橋さん。今年で60年を数える歌手人生は、つねに時代の最先端を行くものでした。最近ではYouTubeチャンネルも開設し、まだまだ走り続ける「これまで」と「これから」を、たっぷり伺いました。
◇レコード会社での仕事は楽しくて、定時1時間前に出社してました。
◇デビュー60周年を記念しての新曲は、テリー伊藤さんの作詞作曲なんですね。
◇頂いた仮歌は、御本人が歌ってたんですよ。僕もテリーさんの歌声、初めて聴きました。
阿木 現在、橋さんは熱海にお住まいなんですよね。
橋 そうです。良いですよ、熱海は。温泉も出るし。今、住んでいるマンションは、プールもあるんです。
阿木 最高ですね。私がお仕事を御一緒させて頂いた頃、確か橋さんは神宮球場の近くにいらっしゃいましたよね。私達のような職種だと、東京から引っ越すのに、決意が要りませんでしたか？
橋 思えば、阿木さんに詞を書いて頂いた時に、自宅兼スタジオを神宮に建てたんです。あれから30年以上、経（た）つんですね。
阿木 もうそんなに経ちますか。本当に月日の経つのは早いですね。橋さんとは「絆」という曲で初めてお付き合いをさせて頂いて。
橋 あれは良い曲でしたね。
阿木 「絆」は韓国で、とても流行（はや）ったらしくて。
橋 発売当時ですか？
阿木 いえ、今でも。韓国ではすっかりスタンダードになって、カラオケでも歌われているそうです。このことを橋さんは、御存知（ぞんじ）なかったですか？
橋 まったく知りませんでした。ただ僕、韓国に行った時、向こうの女性歌手に教えたことは、記憶してるんです。
阿木 多分、それがきっかけだと思います。あの曲は、「道ならぬ恋をしている男女が、自分達の出会いは運命で、2人は切っても切れない絆で結ばれている」といった内容なんですが、韓国では妙な訳詞が付いて「悲しき因縁」というタイトルになってるんです（笑）。
橋 イメージが合いませんね（笑）。
阿木 先日、たまたま主人（宇崎竜童氏）が「絆」を歌ってみたら、「音域が広くて大変だ。高音が出ない」と嘆いておりました（笑）。
橋 宇崎さんに「作ったのは、どなたですか」と言っておいて下さい（笑）。
阿木 はい、必ず（笑）。ところで橋さんはデビューなさって、60周年を迎えられたとか？
橋 そうです。丁度（ちょうど）、今年は節目の年なんです。
阿木 私、今でも覚えていますが、橋さんのデビューは鮮烈でしたね。何しろテレビでお見かけしない日がないくらいの、凄（すご）い人気で。
橋 僕はまだ学生でしたから、何も分からないまま、ただただ「忙しいな、この世界は」と思ってやっていました。
阿木 デビュー曲の「潮来笠」を、いつも着流しスタイルで歌っていらして。
橋 家族ぐるみで応援してくれてたんですが、家が呉服屋をやってたもので。お袋が「絶対、着物の方が良いよ」と。
阿木 当時、演歌の大御所さん達はお着物姿が多かったですが、橋さんのような10代の方の着流しは珍しかった。
橋 僕くらいなものでしたよね。
阿木 それにしても橋さんは強運の持ち主。デビューからして遠藤実さん、吉田正さんという大作曲家が付いていらっしゃった。
橋 本当にそうで、歌手としての生みの親は遠藤実先生、育ての親は吉田正先生ですからね。僕が13歳の時に、母の勧めで遠藤実先生の門を叩（たた）いたのが最初なんです。ただ、それはあくまで母の意向で、僕は特に歌を歌いたいと思っていたわけではないんです。
阿木 歌手になりたいという夢を、お母様が息子に託された感じですね。
橋 でも僕、こういうエピソードを普通に話せるようになったのは、デビューして大分経ってからなんです。それまではずっと、インタビュー等で聞かれると、「歌が好きで、この道に入りました」と言ってましたからね。
阿木 私、橋さんのデビュー当時の経緯を資料で読ませて頂いて、遠藤先生は本当に心が広い方だなと思いました。だって、13歳から手塩に掛けて育てられた橋さんを、御自分が所属するコロムビアからではなく、ライバル会社のビクターで売り出されたんですもの。
橋 あの当時は、歌手はもちろん、作詞家、作曲家もレコード会社の専属だったんです。で、遠藤先生は当然、僕をコロムビアからデビューさせたくて、オーディションを受けさせたんです。でもディレクターから「ちょっと若過ぎるのでは」と言われまして。
阿木 コロムビアは、何てもったいないことを（笑）。
橋 だけど、それが駄目だったことが逆に、遠藤先生の心に火を点（つ）けたみたいで、「今、オーディションをやっているところはないか」と急遽（きゅうきょ）探したら、ビクターでやっていたんです。
阿木 それが、歌手デビューにつながった？
橋 そうです。まあ、かなり話ははしょってますけど（笑）。そしてビクターでは誰に師事するかということになって、最終的に吉田正先生の名前が挙がったんです。で、遠藤先生と一緒に、吉田先生のお宅に御挨拶（あいさつ）に伺ったんです。
