サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2020年6月28日号
白井晃 演出家・俳優・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督
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阿木燿子の艶もたけなわ/306

かつての「小劇場ブーム」の頃から第一線で活躍を続ける白井さん。国内屈指の公立劇場であるKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督という要職にある現在も、演劇や舞台芸術にささげる情熱は増すばかり。今般の新型コロナウイルスの影響で芸術文化が大きなダメージを受けている今だからこその、熱い思いを話して下さいました。

コロナ禍で劇場が失った信頼を、残りの人生を懸けて取り戻したい。

大学卒業後は、会社員生活と演劇を並行してやられていたとか。

辞める間際はもう、深夜まで稽古して、ひげも剃らずに出社。不良社員でした(笑)。

阿木 白井さんとは「初めまして」ですが、今日はこの連載史上初めてのリモート対談ということで、よろしくお願いします。先日、テレビを観ていたら、リモート出演のコメンテーターが、上はちゃんとしたジャケットを着て、下はパジャマだと言っていましたが、白井さんは?

白井 僕は今日、下はデニムです。

阿木 それを伺って、安心しました(笑)。

白井 こういう状態だと、あまり服装に構わなくなりますよね。

阿木 本当に。人に会うと思えばこそ、コーディネートにも気を使いますが。

白井 そうですよね。

阿木 白井さんは俳優さんで、なおかつKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督でもいらっしゃる。今年は新型コロナの影響で公演が軒並み延期、中止となったのでは?

白井 現在(注・対談が行われた5月上旬時点)、劇場はホール、小劇場スタジオ共に閉館しています。主催公演は残念ながら、すべて中止になりました。本当に無念です。

阿木 このような状態を芸術監督というお立場上、どう感じていらっしゃいますか?

白井 我々のような舞台芸術に関わる者にとって試練の時だと思っています。舞台芸術というのは、お客様と表現者が同じ時間に、同じ場所に居ることに大きな意味があるわけでして、その根本的な原理を根こそぎ奪われて、手も足も出ない感じですね。

阿木 ライブというのは「生きる」という意味と、表現者が生身を晒(さら)して生き様を観て、聴いて頂くという側面がありますよね。

白井 本当にそうです。今回のコロナ禍では、演劇、音楽、ダンス、イベントのすべてが大きなダメージを受けましたよね。

阿木 この何カ月間かの延期になった公演の後処理は、どうなるんですか?

白井 どの劇場も、2、3年先まで劇場のスケジュールが決まってますからね。今年、出来なかった公演を順延にすると、4年先になることも有り得ます。

阿木 私もエンターテインメントの世界の片隅に居る者として、非常に残念に思うのは、日本の芸能や芸術文化は、衣食住が足りた後のお楽しみのような位置に居ることです。だから何か事があると、真っ先にカットされる。

白井 日本における、文化の捉え方や仕組みの脆弱(ぜいじゃく)さが今回、明るみになった感はありますよね。

阿木 どんな業界でもそうだと思うのですが、1回活動を止めてしまうと、再始動が凄(すご)く難しくなる。そこで、その文化が消滅してしまうことだって有りますよね。

白井 本当にそうです。KAATは、神奈川県の公共劇場だからこそ、ゆっくりでも構わないから、もう一度、人と人が集う劇場としての信頼関係を、取り戻さなくてはいけないと思うんです。

阿木 白井さんは4年前に芸術監督に就任なさった際、まず年間の公演のプログラム作りから行われたとか。1年間に劇場として何をやるかが分かると、お客様は予定を立てられますよね。それに劇場としての独自性も打ち出しやすい。

白井 お話を頂いた時、僕、劇場側にお聞きしたんです。「芸術監督って、何をやるんですか」って。そうしたら「一緒に考えましょう」と言われて。

阿木 KAATは地の利としては、東京から程良い距離で。

白井 遠すぎず、近すぎず、ですよね。東京を横目に見ながら、東京の劇場では出来ないものをプログラムすることで、独自性を出せたらと思ったんです。それで、まずは年間のプログラムを組み立てることにしました。

阿木 何を上演するかは、白井さんの意見がかなり反映されている?

白井 まあ、とてもおこがましいんですが、僕の任期中に、一緒に作品を創り上げてくれる演出家を指名させてもらったんです。東京のムーブメントとは違い、少しトンガったことをやりたいなと。若くて、暴れん坊的な人に白羽の矢を立てさせて頂きました。

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