牧太郎の青い空白い雲/987
「歴史上」と言うより「文献上」と言った方が正確だが......〝日本人初の糖尿病患者〟は、平安時代中期の公卿(くぎょう)「藤原道長」(966〜1028)である。道長は『源氏物語』の主人公、「光源氏」のモデルのひとり。後一条天皇の摂政、太政大臣に上り詰めた実力者で、有名な「この世をば我が世とぞ思ふ望月(もちづき)の欠けたることも無しと思へば」と詠(うた)った。
この世はまるで私だけのものだ!と感じていたのだろう。ところが「望月の欠け」が音もなくやって来ていたのだ。自身の日記『御堂(みどう)関白記』には、こんな記述がある。
「頻繁に水を飲み、口が渇き、力が出ない、食欲は減らないけど......」。糖尿病にそっくりだ。視力が極端に低下しているので多分、糖尿病網膜症が起こったのだろう。62歳で亡くなったが、死因は糖尿病の合併症による敗血症の可能性大? 典型的な「糖尿病」の関連死だ。
平安時代、貴族は贅沢(ぜいたく)な食事と宴会が続き、運動不足だったから糖尿病になってしまったのだろう。(道長の伯父、兄、甥も同じような症状を訴えているから「遺伝」なのかもしれない)
栄耀(えいよう)栄華を極めた権力者でも「糖尿病」には勝てない。
前回、【放っておけば死にそうな〝知り合い〟が人工透析を拒否する理由?】で紹介した「知り合い」も、重い糖尿病である。同い年の当方も三十数年前から糖尿病になっている。
でも......「知り合い」と違って(辛うじて、ではあるが)合併症が出ないのは多分、「病気を治す秘伝」なるものを信じて、実行しているからだろう。医師でも、薬剤師でもない「ごく普通の年寄り」が言い続ける「秘伝」(最近はネット検索でこの「秘伝」が最上位にランクされているらしいが)。例えば◆肝臓はニコニコ笑って治すもの◆腎臓はよく噛んで治すもの◆胃病は大好物を食べないで治すもの◆心臓はぐっすり眠って治すもの......。
なぜ「肝臓はニコニコ笑って治すもの」なのか?
東洋医学では、肝臓は「怒りの感情」と深いかかわりがあり、怒りの感情ばかりを持ち続けると、肝臓に不調が表れる。だから、いつも笑う。
なぜ、「腎臓はよく噛んで治すもの」なのか?
噛めば噛むほど唾液が出て、血液がキレイになる。血液を濾過(ろか)する腎臓の負担が減る。
では、糖尿病患者に対する「秘伝」は?
「糖尿は汗をかいて治すもの」。今までタクシーやバスに乗っていたところを歩くようにする。汗をかいて運動すれば、確かに「数値」が改善する。
「秘伝」というほど大げさな話ではないが......。藤原道長の時代にはなかった「日常的な努力」で、我々は〝長生き〟しそうだ(笑)。