牧太郎の青い空白い雲/990
日本を代表する大企業のトップだった某氏(実は競馬仲間)が豪華な老人ホームに入居した! と聞いた。で、最近、老人ホームを見学するようになった。
当方80歳。いずれ「施設」のご厄介になるのだろう。最も気になるのは「費用」である。施設によって「入居金」はマチマチ。「標準入居金2900万円、月々の利用料33万500円」というところもあれば、「入居金ゼロ、利用料29万6800円」というのもある(入居金ゼロの代わりに、敷金72万円を預け、退所時に返してもらうシステムもある)。入居金の違いは「部屋の広さ」。それを我慢すればカネはなんとかなりそうだ。
次に気になったのは、「食事」である。施設の大半に栄養士がいて、食事メニューを計画し、体調や個別のニーズに合わせた食事を出す。例えば、朝食はご飯、味噌(みそ)汁、高野豆腐の煮物、ほうれん草の和(あ)え物、ふりかけ。昼食はたけのこご飯、天ぷら、ふきの煮物、春キャベツの和え物、いちごのチーズケーキ。夕食はご飯、コンソメスープ、チキンソテー、茄子(なす)のトマト煮込み、野菜サラダ、オレンジ。豪華である。咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)が困難な高齢者のために、刻み食やミキサー食、とろみ食などの介護食も用意されているらしいし......「栄養たっぷり」である(ある施設の「1日あたりの栄養値」はエネルギー量1539㌔㌍、たんぱく質65・6㌘、脂質45・1㌘、食塩相当量8・2㌘......と明示している)。
ともかく、美味(おい)しそうである。
食事代金は利用料に入っている。ある高級老人ホームの場合、利用料に入っていないから、食べても食べなくても自由。この時の「お値段」は朝食275円、昼食330円、夕食440円。めっぽう安い(スペシャルディナーは1980円ぐらい)。
「施設暮らし」も満更(まんざら)ではない。
老人ホーム見学から帰って、X(旧ツイッター)を見たら、たまたま「○○市の小学校の給食が少なすぎる!」と話題になっていた。
給食の写真を見ると......、麦ごはん、鶏の唐揚げ1個、春キャベツのみそ汁、牛乳。確かに侘(わび)しい。
物価高である。そんな中、栄養士さんが懸命に考えたメニューなのだろう。献立自体は1食あたり約290円、620㌔㌍の基準を満たしているのだが、老人ホームの昼食と比べると......寂しすぎる。給食は「すべての子どもが平等に食事を得られる」のが目的。家計格差による〝昼飯格差〟をなくすためでもある。ともかく、この物価高を何とかしなければ、子どもたちまで餓死しかねない。「子どもの昼飯の質が老人より悪くなってよいのか!」と憤慨していたら......。友人は「老人ホームは食事代を負担できなくなって廃業も多いんだぞ」
もしかして、日本は「多くの人が食べられない国」になろうとしている。
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある