阿木燿子の艶もたけなわ／304
NHKのテレビやラジオの番組でも、阿木さんとご一緒されてきた、桜井さん。局長級アナウンサーなどの要職を歴任し、現在も活躍を続けるベテランアナウンサーですが、偉ぶるところのまるでない素朴なお人柄には、周囲の人と愛し愛される間柄を築き続けてきた誠実な人生像がうかがえます。終始、真摯（しんし）で温かな雰囲気にあふれた対談となりました。
◇私が目指したのは、「ご飯のようなアナウンサー」だったんです。
◇入局当初、「桜井ジミ子」と呼ばれていたとか？（笑）。
◇よくご存知で（笑）。当時着ていた洋服も「田舎のブティック」と言われてました。
阿木 NHK Eテレの福祉番組、「ハートネットTV」ではお世話になりました。桜井さんとお会いするのは、番組終了後の打ち上げの時以来なので、半年ぶりですよね。私、今日はとても楽しみにしていたんです。
桜井 こちらこそ。対談など恐れ多いと思ったのですが阿木さんにお会いできるなら、と思って伺ってしまいました。でも、今日、座る位置が違いません？
阿木 そうですね。「ハートネット」では、コメンテーターの私はゲストの隣で私の隣が桜井さん。チェンジしましょうか？
桜井 そうしましょう。でも、ごめんなさい。余計なことを言って（笑）。
阿木 いえいえ、やっぱりこの方が落ち着きますね。
桜井 収録時は、お互いに笑い上戸の泣き上戸。結構、同じタイミングで泣いたり笑ったりしてましたよね。
阿木 本当にそう、タイミングがピッタリ重なるのね。私がゲストの方のお話に涙ぐんで、ふと横を向くと、桜井さんも目をウルウルさせていて（笑）。
桜井 そうかと思えば一旦、笑い出すと二人共、止まらなくなって。それを押し隠すのが大変でしたね。そう言えばあの「トントン体操」、私、酷（ひど）かったですよね。全然できなくて。
阿木 あー、リハビリ用の体操ね。両手で膝を叩（たた）くんだけど、左右、ちょっと違うことをする。
桜井 阿木さんはお上手で。
阿木 私、ダンスを習っていたので、振り付けを覚える要領で。
桜井 それにしても、希代の作詞家だなと思ったのは、サブタイトルが決まらない時など阿木さんがスタジオで仰（おっしゃ）った一言で、「あっこれが良い」となる。毎回スタッフと「さすが」と言っていました。言葉のセンスに圧倒されました。
阿木 そんなぁ。大したことを言ってないのに。
桜井 本当は、司会者は感情をあまり表に出してはいけないんですけど、あの番組はゲストの皆さんが素で出て下さるので、ついこちらも感動してしまって。それはやはり阿木さんが、あの場を大きく包み込んで下さっていたからだと思うんです。
阿木 いえ、私は司会の桜井さんに寄りかかって、楽にやらせて頂いていただけで。
桜井 アナウンサーだと、どうしても一問一答ふうになるところを、阿木さんが何か発言されると、とても場が和んで、ゲストの方が心を開いて下さる。
阿木 あの番組は福祉がテーマだったから、いろいろ勉強させて頂きました。長い間、親御さんの介護をなさった方とか、御自身が難病で苦しんだ方とか、本当に大変な経験をなさった方にお話を伺うことができて。でも、皆さん、本当に前向きで、私の方が励まされました。
桜井 本当にそうですね。決して声高に仰るわけではないのですが、ポツリポツリと本音で話して下さる。NHKならではの番組だと思いますね。で、私、アナウンサーだからついインタビューしたくなるので、今日は聞かないでおこうとは思ってたんですけど、やっぱり伺っていいですか？（笑）。山口百恵さんの「プレイバックpart2」の、「馬鹿にしないでよ」という歌詞、衝撃的だったんですね。もちろんあくまで歌詞であるのは重々分かっていても、阿木さんの雰囲気からすると、その言葉選びが凄（すご）く意外なんですよ。そういう面も阿木さんには、お有りなんですか？
阿木 そうかも。いざとなると啖呵（たんか）の一つや二つは切るぞ、みたいな（笑）。
桜井 きっと阿木さんは真っ直ぐな方なんですね。それって、横浜育ちということと、関係はないですか？
阿木 多少、有るかもしれませんね。
桜井 私は新潟出身なので、NHKの入局試験の時に、「どんなアナウンサーになりたいですか？」と聞かれて、「ご飯のような、それもコシヒカリのような」って答えたんです。食卓の上で、とくに自己主張はしないけど、乗ってるだけで安心、みたいなね。
阿木 美味（おい）しいご飯は、最高の御馳走（ちそう）ですよね。
桜井 お肉があったり、お魚があったり、美味しそうなものの中にご飯があるとホッとする、そんなアナウンサーになりたいと、思ってきました。
