サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2026年7月 5日号
このまま円安・物価高が続くと、あの「なべ底不況」がやって来る?
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牧太郎の青い空白い雲/1030 


 中学1年生の頃、(漠然とではあるが)「貧乏」になりたくない!と思っていた。
 昭和32(1957)年、時の内閣総理大臣・岸信介さんが記者会見で「汚職、貧乏、暴力の三悪を追放する!」と宣言した。「一番偉い」らしい人物が「貧乏=悪」と言うのだから......。貧乏人にならないように少しは勉強しなければ......なんて思ったりした。その年、日本は「なべ底不況」と呼ばれる経済停滞期。貧乏人ばかりだった。
「貧乏」にならないためには「何か」を持っていなければならない。「貯金」はもちろん、「持ち家」「大企業勤務」「役職」「高級車」......分かりやすい「成功の形」みたいなものが中学生の頭をよぎった。それは〝貧乏じゃない証し〟だった。
 そんな価値観は時代と共に徐々に変わった。
 令和の若者にとって「何を持っているか?」は二の次である。「どう生きているか?」が大事だ。
「時間が十分ある」「健康で動ける」「好きな仕事ができる」「無駄な付き合いはしない」......。「肩書」よりも毎日の満足度を重視する。今の若者は幸せだ!と思う。「自由」に生きることができる。
 ところが、ちょっと気になることがある。
 妙な「盗み」が多いのだ。例えば、岡山市の水路で鉄製のグレーチング(格子状に組んだ蓋(ふた)。約30㌢×約1㍍)が4枚、盗まれた。どこにでもある「蓋」である。これを盗む。被害額は計3万8600円相当と言われるけど。誰が盗むんだろう? 本職の泥棒さんではないだろう。銅板を盗むケースも幾つかある。浜松市の神社では「本殿などの屋根に使われている銅板」がすべて盗まれた。
 トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)とかいう「闇バイト」を使った犯罪も急増している。どうやら、ごく普通の人物が「貧乏」になって、やむを得ず〝泥棒〟になっているのではあるまいか?
 今、多くの人が物価高に苦しんで「貧乏寸前」である。
 今年の正月、年金暮らしの友人が携帯で「カネがないから、一日1食で我慢している!」と冗談を言っていた。聞けば、牛丼や定食チェーンの朝食サービスは午前11時までやっているから、その「最後の時間」を選んで「ご飯のお代わり自由」の店に入るらしい。お茶も無料。それが彼の「一日1食」らしい。奴(やつ)は「コンビニでおにぎり2個と飲み物を買うより安い」と笑った。高齢者も貧乏なんだ。
 大昔の「なべ底不況」を思い出したが......。「円安」「物価高」の地獄から抜け出すのは容易ではない。日本人の貧乏化? そうなれば、令和の若者だって「自分を大事に自由に生きる」ことができなくなる。<br>
 梅雨空に〝イヤな話〟をしてしまったが......。妙な「時代の変わり目」を感じてならないのだ。


◇まき・たろう
 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある<br>

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