牧太郎の青い空白い雲牧太郎の青い空白い雲/1032
自殺する人は多い。日本は年間約2万人、世界ではおよそ80万人を超える人間が自ら命を絶つ。 一度だけ、当方も自殺しよう!と思ったことがある。 47歳の冬、脳卒中で倒れ右半身麻痺(まひ)になってしまった。『サンデー毎日』編集長を辞任して、リハビリに努めたが......。身体がどうしても動かない。その上、言語障害で周囲の人間と上手にコミュニケーションができない。夜は眠れない。「死にたい! 神様だって、自殺しても許してくれる」と思った。キリスト教やイスラム教では「自殺は絶対に禁止」らしいが、お釈迦様は(それぞれの事情で)自殺した弟子を特に非難していない。 思い詰め、入院中の病室から飛び降りようと思ったが......窓際に行くにも身体が動かない。医師から睡眠薬を貰(もら)い、まとめて飲めば死ねる!と〝計画〟したが......医師は「これを飲めば眠れますよ」と言いながら、(後で知らされたが)薬効成分を含まない〝偽薬〟を出していたので......失敗だった。 人間、そう簡単には死ねない。 そのうちに、車椅子生活に慣れて「それなりの生き方」を考え「自殺」なんて考えなくなった。あの時、自殺を選んだら......。「アイツ、リハビリが辛(つら)くて自殺した」なんて悪口を言われ......。とにかく、命を大事にして良かった。 最近、市長選で僅か262票差で初当選した話題の下妻「新」市長が自殺した?ニュースがある。茨城県下妻市は都心から約60㌔圏にある田園都市。映画「下妻物語」の舞台、関東最古の八幡宮、全国有数の生産量を誇る「梨」などで有名だ。その田園都市のトップになった人物が死を選ぶ? なぜだ? 調べてみた。6月15日午前0時50分ごろ、下妻市の須藤豊次(とよじ)市長は隣接する八千代町本郷の排水路で遺体で発見された。67歳。外傷がなく、県警は首を吊(つ)った状態で発見されたので事件性は低いと判断。すぐに「自殺の可能性が高い」と発表。家族から行方不明者届が出されて2時間足らずなので捜査的には「スピード解決」だ。 でも、ちょっと気になった。現場は自宅から約2㌔離れた人通りの少ない、川の堤防脇にある水門。ロープを使って「首吊り」するのは難しい。行方不明の届けがあったら第一に捜すほどの自殺の名所なのか? しかも、遺書はない。 警察が「自殺」と決めつけるのなら早すぎる気がする。警察は「病気の孤独死」でも窓や玄関の鍵が一つ開いていただけで「事件性あり」として検視を徹底する。「遺体の司法解剖は?」「ロープの出所は?」「関係者の事情聴取は?」。ネット上に、次々と「疑問」が出る。「警察は殺人犯の味方」という〝書き込み〟まである。警察は「真実」を追求すべきだ。このままでは市長は「仕事を放り投げ自殺した」と悪口を言われかねないのだ。
◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある