サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2020年5月10日号
石橋蓮司 俳優
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阿木燿子の艶もたけなわ/300

数々の映画やドラマで存在感を放つ名脇役として、あるいは舞台での鬼気迫る演技で知られる名優、石橋蓮司さん。18年ぶりとなる主演映画では、ベテランから若手まで主役級の面々が、「蓮司さんのためなら」と集いました。そんな豪華な現場でのエピソードや、生涯の盟友である故・原田芳雄さんとの思い出話もうかがいました。

◇俺、地球上に生きている生き物は、ほぼ全部演じたんじゃないかな。

◇今井正監督のオーディションを受けたのが、本気で役者を目指したきっかけだとか。

◇凄く緊張して臨んだんですが、一発でOK。でも後から聞いたら、強姦魔の役で(笑)。

阿木 今回の映画「一度も撃ってません」は蓮司さんの18年ぶりの主演作ということで、今、とてもお忙しいのでは?

石橋 撮影後もいろいろスケジュールが詰まっているので、びっくりしました。

阿木 プロモーションって、俳優さんにとればアフターサービスに近い?(笑)。

石橋 何を喋(しゃべ)って良いのか分からないし、なんかもう「アレレ」って感じですよね。

阿木 先日の完成報告会のインタビューをテレビで拝見したんですが、共演なさった桃井かおりさんのコメントがおかしくて。かおりさんったら蓮司さんのことを「この人、脇役を食う主役なの」って。蓮司さん、脇を食っちゃ駄目じゃないですか(笑)。

石橋 まあ、かおりらしい言い方ですよね。

阿木 もともと蓮司さんは名脇役の誉れが高い。今まで散々、主役をガブリと(笑)。

石橋 いや、そんなことは(笑)。

阿木 今回は凄(すご)いキャスティングですね。大楠道代さん、桃井かおりさん、岸部一徳さん、佐藤浩市さん、江口洋介さん、妻夫木聡さんと主役級の方ばかり。

石橋 俺もびっくりしたんです。最初、脚本が丸山昇一さんということで「あー〝B級パラダイス〟ね。久しぶりに良いんじゃないか、遊ぼうか」という感じで引き受けたんですが、後からキャスティングを聞いて「ええ!」って。で、本気で「みんな、出るの?」って聞いたくらいで。

阿木 やはり蓮司さんが主演ということで、みなさんがぜひ参加したいと思われたのでは?

石橋 いや、阪本順治監督の人望と魅力だと思いますよ。

阿木 もちろん、それもあるでしょうけど、蓮司さんと一緒に〝遊びたい〟人が大勢いた。

石橋 後から勘ぐるに、キャスティングを決める時に「石橋蓮司の遺作になるから」って集めたんじゃないかって(笑)。じゃ、生前葬の代わりってことで、現場は盛り上がりましたけどね。

阿木 私、試写を拝見したら、何だか、ほろ苦い気持ちになって。久しぶりに胸キュンしました。

石橋 ご覧頂いたんですか?

阿木 もちろんです。主人(宇崎竜童氏)と一緒に拝見しました。

石橋 ご主人はお元気で?

阿木 ありがとうございます。元気です。二人で画面を観ながら「あの頃、ああいう酒場があったね、ああいう人達が居たね」と話し合っていたんです。私達世代には、本当に懐かしいシーンが沢山(たくさん)あって。

石橋 宇崎さんといえば俺、今度、原田芳雄さんの追悼記念ライブで、宇崎・阿木夫妻の作ったオカマの歌を歌わせてもらうはずだったんだけど、延期になっちゃってね。

阿木 「赤坂一ツ木どん底周辺(あたり)」ですね。芳雄さんが好んで歌って下さっていた曲です。蓮司さんは役の幅が凄くお広いので、当然女装した男性というパターンも?

石橋 ええ、何度かやらせてもらいました。俺ね、地球上に生きている生き物は、ほぼ全部演(や)ったんじゃないかな(笑)。

阿木 それなのに、普通のサラリーマンはあまりなさったことがないとか?

石橋 普通って、一番難しいんです。俺、サラリーマンを経験していないじゃないですか。だから分からないんです。彼らの悲哀とか、何を我慢して、何を自己主張しようとしているのか。その辺の〝堪(こら)え方〟が分からない。ヤクザとかアウトローの方が想像しやすい。

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