サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年12月15日号
周防正行 映画監督
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阿木燿子の艶もたけなわ/280

自他共に認める寡作ながら、そのフィルモグラフィーは、日本映画史に輝く名作ぞろい。あまたの現場で鍛え上げられた生粋の映画人・周防監督が新作のテーマに選んだのは、なんと「大正時代の活動弁士」です。異色の作品にこめた思い、そしてご自身の映画人生をお聞きする中で、ほかならぬ阿木さんの夫・宇崎竜童氏との意外なご縁も......。

◇活動弁士がこんなに活躍したのは日本の語りの文化のなせる技ですね。

◇堂々とやれば、下ネタも恥ずかしくない?(笑)。

◇面白いと信じたら、誰に憚(はばか)ることなくやってしまった方が、上手くゆくんです。

阿木 周防さんはここのところ、新作映画「カツベン!」の取材対応でお忙しいですよね。映画が出来上がった後も、お立場上、アフターサービスが大変ですね。

周防 まあ、アフターというより、公開に先駆けてのビフォーなので。

阿木 マスコミ対応は、お得意な方?

周防 僕なりにベストは尽くしますが、疲れます(笑)。映画監督にとって一番辛(つら)いことは、自分が作った映画の説明をすることでして、だからいつも、どうお話をするか悩むんです。

阿木 「これ以上解説はしません。とにかく観て下さい」と言いたくなりますよね。

周防 なので今回の場合は活動弁士とか、活動写真とかの映画史をなるべくお話しして、と思っています。

阿木 タイトルが「カツベン!」なので、若い方はカツ丼のお弁当屋さんの話と思うかもしれませんね(笑)。でも覚えやすいタイトル。

周防 決めたのは僕なんです。確かに「お弁当と勘違いする人がいるかもしれませんよ」とは、映画関係者からも言われていました。

阿木 基本的に周防さんはタイトルの付け方がユニークですよね。「Shall we ダンス?」にしろ、「シコふんじゃった。」にしろ、とても印象的で。

周防 「シコふんじゃった。」は関係者全員に反対されたんです。「はっけよい」がいいんじゃないかとか言われて(笑)。

阿木 いえいえ、あの映画は「シコふんじゃった。」じゃないとね(笑)。竹中直人さんの軽妙な演技を思い出すと、本当にぴったりだなと思います。

周防 ありがとうございます。

阿木 意外に、周防さんは監督さんとして寡作ですよね。

周防 意外どころじゃなく、凄(すご)く寡作で。僕、オリンピック監督と呼ばれているんです(笑)。映画監督になって35年なんですが、撮った作品は9本なので、4×9=36で、来年撮らないと、まさしくオリンピック監督(笑)。

阿木 でもヒット作の確率は高い。練りに練って、面白いものをお作りになるからでしょうね。やはり準備に時間がかかるんですか?

周防 要は「これを撮りたい」と思えるものに、いつ出会えるかですよね。「Shall we~」から、刑事裁判をテーマにした映画「それでもボクはやってない」までの間、10年くらいあるんです。他にも企画は何本かあったんですが、「それでも~」のシナリオを書くのに、3年かかりました。

阿木 かなり効率が悪い監督さん(笑)。でも、それだけシナリオを練られるってことですよね。

周防 逆に言えば、シナリオが出来て、キャスティングが決まれば、もう9割、映画の仕事は終わっている感じです。

阿木 大体の仕上がりが見える?

周防 もうそこから大きく外れることはないので、おおよその見当は付きます。

阿木 キャスティングは、監督の意向がかなり反映されるんですか?

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