牧太郎の青い空白い雲/1008
世の中、よく分からない「決まり」がある。
例えば、高市早苗さんを第104代首相に就任させた「首相指名選挙」の「決まり」である。
衆参両院の本会議場で議員が一人一人、演壇に足を運んで記名投票する。それが「決まり」。時間がかかり、衆院で約40分、参院では1回目に約30分、決選投票になったのでまた30分ほどかかった。
確かに「元首」に近い権限を持つ〝内閣総理大臣さま〟を選ぶのだから、それなりの「儀式」が必要なんだろう。
でも、全議員が議席でボタンを押せば......たぶん「5分」ぐらいで終わるのに......。儀式性を選ぶか、効率性を選ぶか? 時間を有効に使ったほうがいい!と思うけど(笑)。
「儀式性」と関係するかどうか?分からないが「裁判の傍聴」にも〝変な決まり〟が存在する。
「裁判の傍聴」は、事前に申し込みなしで原則誰でも可能。裁判所の入り口付近にある開廷表で、公開されている裁判を確認し、誰でも法廷に入室できる。そこで、事件記者だった若い頃「何か格好のネタがないか?」と裁判所に日参したものだ。裁判は事件関係者だけでなく、誰にも「公開」している。
しかし、世間が注目する裁判はそうはいかない。傍聴席に限りがあるからだ。
例えば、安倍晋三元首相銃撃事件。殺人、銃刀法違反、武器等製造法違反、火薬類取締法違反、建造物損壊など、およそ五つの罪状で起訴されている山上徹也被告(45)の裁判員裁判は特別、関心を集めた。
当然だろう。人気者だった首相経験者が殺された。犯人はその場で逮捕されたが......本当に単独犯なのか? 動機は? 「母親がカルト宗教を妄信した」のが原因だったのか? 元首相とその宗教団体との「関係」は? なぜ、事件発生から初公判まで3年以上もの時間がかかったのか? その理由も裁判で知りたかった。10月28日の初公判。傍聴希望者は727人。審理が行われたのは奈良地裁で一番広い101号法廷。それでも傍聴席は約70席。記者席を除くと、この日の一般傍聴席は32席だったという。
これでは「裁判は公開!」とは言えないだろう。「決まり」を変えなければいけない!と思う。
パリ同時多発テロ(2015年)の裁判と比べると......。事件関係者が多く、裁判はパリ市内のシテ島にある特別裁判所の仮設法廷で行われた。750平方㍍の大法廷は550人まで収容可能。しかも、他の11の法廷を利用して、ビデオリンクの大画面で傍聴できるようにした。傍聴したのは数千人?
裁判には「儀式性」も大事だが、同時に「できるだけ多くの人が歴史の真実を目撃すること」が必要ではないのか? 裁判の「決まり」を変え、奈良の裁判を「東京の劇場」で傍聴すればいいじゃないか?
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある