サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年11月30日号
病院の倒産時代? 「待合イスの生地が破けたまま」はヤバいぞ!
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牧太郎の青い空白い雲/1006 

 子どもの時から「歯医者」が大嫌いだった。

 東京・下町。町内の歯医者の爺(じい)さんは虫歯を見つけると、なぜか嬉(うれ)しそうに「麻酔をしますからね。大丈夫! 大丈夫!」と言いながら大胆?に歯を削る。最後に「白い詰め物」を入れてくれるのだが......家に帰ると「そこ」が痛い!

 ヤブ医者野郎! 二度と行かないから......という気分になる(笑)。

「あの先生の家は、江戸時代からの〝歯抜き師〟。見せ物の〝居合い抜き〟みたいな早業で、歯を抜いていたらしい。歯が痛いのは当たり前よ!」と明治生まれの母はいつも笑っていた。

 その先生の倅(せがれ)、またその倅が後を継いで繁盛していたらしい。

 ちょっと前のことだが突然の歯痛。仕方なく、例の歯医者さんに予約の電話をかけると「ただ今この電話は使われておりません」。

 調べてみると、かなり前に閉院していた。町内では他にも歯科医院が廃業しているらしい。

 歯科医院の倒産・休廃業・解散は全国的な傾向で、2024年だけで休廃業件数は100を超えているという。理由は歯科衛生士の人手不足、物価高騰に伴う治療材料費の値上げ、もちろん人件費もバカにならない。

 また、マイナ保険証に対応した電子カルテシステム導入が「高齢のお医者さん」にとっては大きな負担になったらしい。

 子どもの頃から「大嫌いな歯医者」は多すぎる! と思っていた。今でも、歯科医院は全国で66378軒(24年医療施設動態調査)。約6万軒のコンビニより多い。

 でも少子化である。「虫歯」の子どもを奪い合っているのにも限界があるのだろう。江戸時代からの「歯抜き師・入れ歯師」産業もピンチなのかもしれない。

 前々回の【お医者さんは〝患者の味方〟だけど、時には製薬会社の「強~い味方」?】を読んでくれた、某大学病院の親しいドクターは、「歯医者だけではないんだゾ。来年は大学病院がバタバタ倒れるかもしれない」。彼は「今の病院にはカネがないんだ」と話す。

「カネがない」とどんな状態になるか? 医療機器、たとえば人工呼吸器やECMO(人工心肺装置)などの更新ができなくなる。検査機器が壊れて検査できない! という事態もあるらしい。

 カネがないから患者が使う場所以外はスタッフが残っていてもエアコンを停止! 待合室のイスの生地が破れていてもカネがないから修繕できない。

 新聞を読むと「24年度の大学病院全体の経常赤字は508億円」とある。もし、病院が次々に倒産したら......。熱が出たので(数が少なくなった)病院の外来に行ったら、5時間待たされて「今日の診療は終了しました。明日の朝また来てください」なんてことが......(笑)。

 高市さん! 何とかしてくれよ!

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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