阿木燿子の艶もたけなわ/276
「ひよっこ」「いだてん」といったNHKのドラマでお茶の間に顔を出したかと思えば、舞台上では妖しげな老婆や孤高の女王などを圧倒的な存在感で演じ上げる。そんな白石加代子さんの素顔は、意外なほどに明るく、のどかなもの。しかしその裏には、半世紀以上命がけで対峙してきた「芝居」への、狂おしいほどの情熱と愛が迸っていました。
◇体の中から湧き上がってくるものを処理できずに苦しんだ時期もあったの。
◇もし、女優さんになっていなかったら?
◇そうねえ、悪の道に走っていたかも(笑)。
白石 初めて、お会いした時ね、あなた、ご酩酊(めいてい)だったの。
阿木 えっ、いつですか?
白石 30年くらい前。
阿木 そうでしょう。最近はもうそんな元気はないので(笑)。
白石 確か銀座の地下のバーだったと思うわ。私、人に連れられて行ったんだけど、へえ、こんな所で遊ぶ人も居るんだと思ったら、その中にあなたもいらした(笑)。
阿木 きっとバブルの頃ですね。あの頃はよくお誘いがかかって、夜な夜な飲みに(笑)。
白石 やっぱりね。誘いたくなる甘い、ふんわりした雰囲気が、あなたにお有りだもの。
阿木 そうですか(笑)。そのお言葉を〝気さくなタイプ〟と受け取って、白石さんのことを、今日は「かよちゃん」と呼ばせて頂いて、よろしいでしょうか?
白石 もちろんです。ありがとう。みなさん、私のこと、そう呼んで下さるの。
阿木 主人(宇崎竜童氏)が蜷川幸雄さんのお芝居の音楽を担当させて頂いた時に、かよちゃんとご一緒だったと。
白石 シェイクスピアの「夏の夜の夢」ね。砂が上から降ってきたり妖精が出たりの祝祭劇でしたね。宇崎さんの音楽がとても素敵で。
阿木 かよちゃんは蜷川さんの舞台にずいぶん出ていらっしゃるでしょう?
白石 あれが最初のお付き合い。私、それ以前は難しい暗い舞台にばっかり、出てたんですよ。
阿木 とくにかよちゃんのホームグラウンドだった早稲田小劇場は、ちょっと理屈っぽい。
白石 そうね。でも、ちゃんと正当なことをやってるんですよ。
阿木 当時の劇団って、それぞれ個性的で、演出家は理不尽なことを言いそうな人が多かった。
白石 そうね、それでも役者は望まれたことをやらなくてはいけないでしょ。だけど役者の体って、頭では分かっていても、その通りに動かないってことがあるのよね。
阿木 今日はかよちゃんの身体的能力について、まずお聞きしようと思ってきたんです。かよちゃんって、もの凄(すご)く関節が柔らかいんですって? 中国雑技団みたい?