牧太郎の青い空白い雲/1010
2025年は「最悪の年」だった。7月初め、風呂場で転倒してしまった。浴槽に腰がスッポリはまり体が動かない。何とか、立ち上がったのだが......。数日後、脳卒中の後遺症で麻痺(まひ)している「右足」がまったく動かなくなった。
必死のリハビリ、何とか車椅子で動くようになったが......。毎朝、体をベッドから車椅子に移動するのが難しい。そんな時「オレの一生、幸運だったのか? それとも不運だったのか?」と考え込む。
ロクに勉強もしないで大学に入学。希望通り新聞記者になれた。『サンデー毎日』の編集長として、思い切り動き回った頃もある。間違いなく「幸運」だった。でも......47歳で脳卒中に倒れ、体が不自由になってからはどうだろう? 不幸の極地である。
今、81歳。歩行ができない状態で「あの世」に行くなんて......。泣きたくなる。
人間の〝幸せ〟には、相対的幸福と絶対的幸福があるらしい。
他人様(ひとさま)と比較して〝幸せ〟と感じるのが「相対的幸福」。地位や富、理想の相手と結婚する喜び、家を新築する喜び......。確かに〝幸せ〟だ。でも、この幸福は環境が変われば大きく変化する。47歳で倒れたのがいい例だ。
それに対し、絶対的幸福は「外部の条件に左右されず、生命そのものが満ち足りている状態」。親鸞聖人は『歎異抄(たんにしょう)』で「念仏者は、無碍(むげ)の一道なり」という言葉を残している。「無碍の一道」とは【どんな状況や障害に直面しても、それを乗り越えていける、揺るぎない絶対的な幸福な生き方】のことらしい。親鸞聖人が言う通りに生きられるなんて......まあ、無理だ。やっぱり「不幸」のまま一生が終わるような気がする。
そんな時、友人から「ロボット」の話を聞いた。生き物のように複雑な動作ができる、あのロボットである。今、あらゆる分野でロボットが活躍している。例えば「排泄(はいせつ)支援ロボット」。体を動かせないと夜間の排泄が大変。介助に頼っているが......。老人施設の中には「自立支援と衛生管理を両立する目的」で、この支援ロボットを導入しているらしい。
そういえば、外食産業ではスタッフの代わりに「注文を受けた商品」を運ぶ配膳ロボットを導入している。中国では、ヒューマノイドと言われる「頭部、胴体、腕、脚などを持ち、人間に似た形状で二足歩行するロボット」が人気。手のひらはあるが指がない!とか、関節が人間とは逆方向に曲がる!とか、部分的に人間と異なる形状が多いようだが、お値段は(駆動装置の数で違うが)100万〜2000万円程度。もしかして、ロボットの力を借りたら「絶対的幸福」になれるかも(笑)。
読者の皆さん、25年もありがとう。年末年始は「未来の夢」を見て楽しく過ごすことにした。
◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある