サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年8月11日号
宇多丸 ラッパー
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阿木燿子の艶もたけなわ/263

即興で言葉を紡ぎ、リズムに乗せるヒップホップミュージック。ここ数十年ほどで、日本でもメジャーな音楽ジャンルとなりました。宇多丸さんはヒップホップを国内に広めた草分け的存在で、ラジオMCや評論家としても活躍。意外にも「ラップをほとんど聴いたことがなかった」という阿木さんと、世代を超えた対談が実現しました。

日本語の生理にないリズムに言葉を乗せる。常に実験しているようなもの。

ラップって、即興でやるものというイメージでしたが、結構練りに練る?

即興はラップの中の一技術。ヒップホップ文化は、スポーツ的な要素が多分にある。

阿木 今日は私、宇多丸さんがゲストで来てくださるので、ポップな感じに前髪を下ろし、雰囲気を変えてみました。

宇多丸 そんな、わざわざ光栄です(笑)。

阿木 私、今までラップをほとんど聴いたことがなくて。でも、宇多丸さんがやっていらっしゃるユニット「RHYMESTER」のベスト盤を拝聴して、びっくりしました。凄(すご)く高度なことをやっていらっしゃるなと。ただ歌詞カードの字が小さくて読めなくて。ほら、何でしたっけ、今、盛んにテレビで宣伝している......。

宇多丸 ハズキルーペですか?

阿木 そう、それがあればよかったなって(笑)。私、この2~3日、虫眼鏡と首っぴきだったもので。

宇多丸 ラップは言葉の情報量が多いので、どうしても字数が多くなってしまい、恐縮です(笑)。

阿木 歌詞カードをじっくり読ませて頂いて、私には書けないなと思いました。「RHYMESTER」のライムって、"韻"という意味ですよね。ラップは韻を踏みつつ、リズムに言葉を乗せて、気持ちやメッセージを伝えてゆく。かなり技術が必要ですよね。

宇多丸 元々、日本語の生理にないリズムに言葉を乗せるので、常に実験しているようなものなんですが、そこが、逆に魅力だったりするんです。

阿木 私が知っている数少ないラップの大スター、パブリック・エナミー(注1)なんかだと、世の中の矛盾を鋭く突き、体制にモノ申す、みたいな歌詞が多いように思うのですが、宇多丸さんの歌詞はもう少し捻(ひね)っていて、大人っぽい。

宇多丸 まあ、僕が年だっていうこともありますが(笑)。ただ、もともとアメリカのヒップホップも、パーティーを盛り上げるために生まれたし、今も主流はその方向です。

阿木 それで面白いのは、ラップには誕生日があるという?

宇多丸 そうなんです。珍しいですよね、生まれた瞬間が分かっている音楽って。1973年の8月11日なんですが、場所はニューヨークのウエストブロンクスの一画、若者たちが開いたパーティーで、その原型が生まれたんです。

阿木 さらに興味深いのは、ラップが世に広まったのがニューヨークの大停電後だったとか。悪ガキ達がお店から機材を盗んで、それぞれ始めたことで、一気に広がった。

宇多丸 77年の大停電を機に、なぜかラップグループやDJが増えた(笑)。今になってドキュメンタリー番組とかで、当事者が「おかげでグループが組めたんだ」なんて言っています。

阿木 その辺もアメリカらしい。日本のラップとは、スタート地点が違いますね。

宇多丸 でも今や、日本も限りなくアメリカに近くなってるんです。貧しい層から這(は)い上がってくるグループが増えています。一般的に日本には貧困層がいないと思われてますが、現実はそうじゃない。

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