サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年7月14日号
岸田雪子 ジャーナリスト・キャスター
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阿木燿子の艶もたけなわ/259

被害を受けた子供の自殺などをきっかけに、ここ数十年間で社会問題として広く認知されるようになった「いじめ」。元日本テレビキャスターの岸田雪子さんは、この問題を早くから追いかけてきた一人です。時代が変わっても繰り返されるいじめの要因や、予防策を伺いました。企業のハラスメント対策にも通じるヒントが満載です。

◇大人同士がギスギスしていると、子供の世界も写し鏡のように似てきます。

◇最近の傾向として、いじめる側といじめられる側が循環するのだとか?

◇疑心暗鬼になっている子は少なくないと思います。人間関係を深く結べませんよね。

阿木 以前、テレビの午後の情報番組で、しょっちゅうお顔を拝見していました。

岸田 ありがとうございます。「情報ライブ ミヤネ屋」ですね。あの番組では「最新ニュース」のコーナーのキャスターを6年近くやらせて頂きました。

阿木 岸田さんはもともと日本テレビの報道局の社会部記者でいらしたんですよね。そこで教育を担当なさって、各地の学校を取材されたりとか。

岸田 はい。社会部や政治部の記者をやったり、番組の台本を書くディレクターやプロデューサーなどの裏方の経験も長いです。

阿木 ご自分では裏方と表方、どちらが向いていると?

岸田 両方やるのが自分らしいのかな、と思っています。キャスターの仕事を始めたのは30歳を過ぎてからですが、新しいことを始める時は、いつも「自分の伸びしろ」に根拠なく賭けている感じで(笑)。取材や演出の経験があるからこそ伝えられるニュースの深みがあれば、と思っています。

阿木 基本的に作詞家というのは裏方なんですが、私もこうして対談をやらせて頂いたりして思うのですが、裏方と表方の両方をやるのは悪くないですよね。モノを見る目が複眼になるというか。表だけだと、裏方の苦労が分からないことがあるし。

岸田 そうですね。テレビは本当にチームワークなので。

阿木 こうして実際にお目にかかっていると、岸田さんはとてもおっとりしていらっしゃいますが、去年お出しになった『いじめで死なせない 子どもの命を救う大人の気づきと言葉』というご著書を拝読すると、かなりの社会派。子供のいじめを、鋭い切り口で書いていらっしゃる。

岸田 20代の頃、いじめを受けて傷つき、転校を選んだ少女を取材したことがあるんです。それ以降、時間を見つけては学校やフリースクールを回って、子供達の声を聞いてきました。そこで感じたのは、いじめは子供達だけの問題ではなく、大人達から変えてゆかなければ、ということなんです。そんな時、「大人に向けたいじめの本を書いてみませんか」というお話を頂いて、お引き受けすることにしました。

阿木 それでタイトルが「いじめで死なせない」なんですね。子供達に向けて書いたなら"死なないで"のほうが合いますものね。それにしても、いじめによる子供の自殺のニュースをテレビや新聞で目にする度に、なぜ防げなかったのか、と胸が痛みます。

岸田 本当に。子供の自殺は遺書を残さないケースも多いので、原因がはっきりしないことが多々あるのですが、死因だけで見ると、日本では、10代前半の死因の1位が、自殺なんです。

阿木 私、基本的に日本は住みやすい国だと思うんです。気候は穏やかだし、清潔だし、人々は親切だしと。でも、そんな国で、子供の自殺がこれほどまでに多いこと自体、問題ですよね。

岸田 本当の意味で豊かな国とは言えないですよね。自殺が繰り返される理由の一つは、過去の教訓を、大人達が生かすことができていないからだと思っています。だからこそ、書物という形で、子供達や親達の経験を残し、広く伝える意味があると思いました。いじめられて、生き延びた子供達の経験は、とてもたくさんの教訓を与えてくれます。どうやってSOSを発していたのか、大人は何ができて、何ができなかったのか、とか。いじめられた子供達は自尊心が深く傷ついた状態ですから、自信を取り戻せるよう、愛着を形成しなおすことも大切だと思っています。

阿木 愛着形成というのは、親に丸ごと存在を認めてもらうことで、育つんですよね。条件付きでないというか。試験の成績が良いから、誉めてもらえるとか、親の言い付けを守れば、ご褒美をもらえるとかいうのではなく、どんな時も「あなたのことが、大好きだよ」と言ってもらうことで、その子は、自分は生きてていいんだ、生きる価値があるんだと思える。

岸田 無条件に安全で、安心な居場所があれば、外で傷ついても癒やすことができる。今、大人の引きこもりが社会問題になっていますよね。登戸の殺傷事件の容疑者も、引きこもりだったと言われていますが、根っこのところに愛着の問題があると思っていまして。これから取材したいテーマです。

阿木 ああいう悲惨な事件が起きると、"引きこもりの人はみんな危険なんじゃないか"みたいなことになりがちですが、それも間違えてますよね。

岸田 まったく違いますね。引きこもるという行為は、自分は社会に受け入れられていないという「悲しみ」の表れだと思うんです。子供の頃にいじめられたり、虐待された経験を持つ人も少なくありません。就職氷河期世代で傷ついたり。自分は必要とされていないと感じることは、本当に辛(つら)いことです。その方達の高齢化も今、問題になっていますし。

阿木 8050問題ですね。親は80代、子供は50代。これでは共倒れになってしまう。子供は定職もなく引きこもっている。自分達が死んだら、この子はどうなるのか、と親は死んでも死にきれない気持ちですよね。

岸田 本当に。親も含めた家族全体への支援が必要だと思います。

阿木 私、ご著書を拝読しながら考えていたのですが、岸田さんのいじめに対するアプローチは、社会的な問題としての関心なのか、それとももう少しパーソナルで、心理学的な方向なのか。もちろん、両方とは思いますが。

岸田 人間が社会生活を営んでいる限り、いじめを完全になくすことは難しいと思うんです。それなのに、あってはいけない、あるはずがない、と全否定してしまうと、「見て見ぬふり」が生まれてしまう。なので、まずは、いじめ自体をオープンに語り合いながら、予防を心がける。いじめられても生き延びるために、何が傷を癒やせるのかを、社会で共有することが大切ではないかと。

阿木 確かに人間が存在する限り、どこにでもいじめが発生する余地はありますよね。学校に限らず、会社だろうが、アルバイト先だろうが、老人ホーム、介護施設、ママ友のグループにだって起こり得ますよね。そんなニュースに接すると、いつも人間って、どうしてお互いに優しくし合えないのだろう、許し合えないのだろう、と考え込んでしまいます。

岸田 いじめることで、快感を得てしまう面もあると思います。

阿木 いじめで快感を得る? どういうことですか?

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