サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年7月 7日号
松尾貴史 タレント
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阿木燿子の艶もたけなわ/258

かつて「朝まで生テレビ!」のパロディーで一世を風靡。現在は俳優、折り紙作家、カレー屋経営と、多芸多才な顔を見せる松尾貴史さん。コンビニの年齢認証から愛国心まで、幅広いテーマで社会時評を展開する『毎日新聞』の連載コラムも人気です。反骨精神に溢れたお方と思いきや、モットーは「頑張らないこと」と松尾さん。そのココロやいかに?

◇「やや気張り」くらいがちょうどいい。座右の銘は「中途半端」なんです。

◇今はネット社会なので、何かあるとすぐ、炎上ってことになりますよね。

◇論争が起こり、問題の本質が露わになることもある。炎上も悪くないと思うんです。

阿木 「松尾貴史」って、実は芸名なんですよね。タモリさん、たけしさん、明石家さんまさんと、今も大活躍していらっしゃる芸人さんは母音に「あ」が付く方が多いので、お付けになったとか?

松尾 日本人の耳には、あ段の名前が馴染(なじ)みやすいだろうと思って付けさせて頂きました。ちょっと姑息(こそく)な考えではありますが。

阿木 姑息な考えって、あのー、私も「あ段」なんですが(笑)。それも一番最初にくる「あ」。

松尾 そうでしたね。「あ」の響きって、開放感がありますよね。

阿木 作詞家の大先輩に阿久悠さんがいらっしゃいますが、実績に関係なく、50音順だと私のほうが常に先で。ただ「あぎ」さんと呼ばれることも少なくなくて。中には「大ファンです」とおっしゃりながら、「あぎさん」って(笑)。

松尾 正しくは「あきさん」なんですよね。昔、電話番号を調べるのは、50音順の電話帳でしたよね。それでアート引越センターは、引っ越し業者のトップに載るよう「アート」にしたとか。芸術のアートとはまったく関係ない(笑)。

阿木 松尾さんはもともと「キッチュ」というお名前で、芸能活動をなさってらしたんですよね。「松尾貴史」で活動を始められるようになったのは、いつから?

松尾 平成元年の4月の頭だったと思います。某テレビ局の報道局が作る帯の情報番組に出演することになり、局の方から、漢字の名前にしてほしいと言われたんです。本来「キッチュ」はまがい物とか粗悪品とかいう意味なので、「その名前でニュースを読むのはまずいだろう」ということだったと思います。そんなことで僕は「万城目」という名字がいいなと思ったんですが、局からOKが出なくて。なので次は「長宗我部元親(ちょうそかべもとちか)」という名前を提案したんです。

阿木 また凄(すご)く立派ですね。土佐の戦国大名と同じ名前(笑)。

松尾 そうしたら「そのほうがより胡散(うさん)臭いからやめてくれ」って。「じゃ事務所で好きなように付けてください」って頼んだら、当時の事務所の社長の下の名が「タカシ」だったんです。「名字は、あ段で始まる名前なら、何でもいいです」と希望を伝えたら、事務所の古舘伊知郎さんの奥さんの旧姓が松尾だったので、それを貰(もら)った形になりました。

阿木 キッチュさんから松尾さんに変わられた時は、どんな感じでしたか?

松尾 最初、松尾はニュース番組でしか使わないつもりでいたので、さして愛着があったわけではないんですが、漢字の名前って、便利ですよね。普通に納まりが良くて。

阿木 松尾さんの芸風から考えると、キッチュさんも捨てがたいお名前じゃないかなと。松尾さんって、二つの名前を行き来するのが合っていらっしゃるかも。二重人格みたいで(笑)。

松尾 僕、他にも名前があって、たまに落語をやるので、春風亭昇太さんから、「副業亭カレー」という高座名を頂いてます。使ったことはありませんが(笑)。

阿木 それもぴったりじゃないですか。松尾さんは実際に副業でカレー店を経営なさってるわけだし。今、落語とおっしゃいましたが、松尾さんはお子さんの時から、浮世絵とか落語とか、和テイストのものがお好きだったとか?

松尾 そうですね。父がアメリカかぶれで、観る映画は洋画、聴く音楽はジャズって感じだったので、逆に僕は日本っぽいものに憧れていたのかもしれませんね。

阿木 お父様は、神戸でバーをやってらしたんですよね?

松尾 そうです。外国人客が多いバーでして、母も店を手伝ったりしていて、夜は僕一人のことが多かったんです。なのでテレビのチャンネルを独り占めにできたんです。

阿木 あの頃の家庭は大抵、父親がチャンネル権を持っていて、子供はそれに従うしかなかった。

松尾 僕はもう、好きなものを見放題で。でも、僕があまりに勉強をしなかったもので、父が怒って、NHKの教育テレビにチャンネルを合わせて、ツマミを抜くようになって。それをポケットに入れて出ていっちゃうんです。僕も悪知恵を働かせて、道具箱からペンチを持ち出し、それで挟んで、チャンネルを回してたんです。

阿木 ツマミまで抜いていくって、お父様の執念を感じますね(笑)。でも、その厳しいお教えに背き、お父様の留守中、深夜番組の「11PM」をご覧になっていたとか?

松尾 よくご存じで(笑)。僕はその日ゲストとして出ていた月亭可朝(注)さんの大ファンだったので観てたんですが、CMに入る直前に父が帰ってきて、画面が水着の女性がにっこり笑うシーンに切り替わったんです。それで父が「子供の癖に、こんなものを観やがって」って怒り出し、足を縛られ、3階のベランダから逆さ吊(づ)りにされたんです。

阿木 うわっ、大変! ほとんどお仕置きですね。

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