サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年8月10日号
救急車に乗ったけど「病院がありません!」。コレ、悪夢? 正夢?
loading...

牧太郎の青い空白い雲/995 

 何が起こったのか? まるで分からないが、救急車で病院に運ばれているらしい。川沿いの国道? 窓から高いビルが見える。でも......この救急車はバスにも、トラックにも、普通のクルマにも抜かれている。走っているかしら?

 運転手がスマホと向かい合って、何事か叫んでいる。

 何か変だぞ? すると、突如、運転手が「このあたりには病院がないらしい。申し訳ないが、歩いて自宅に戻ってください」「歩く? 脳卒中の後遺症だよ。歩けないよ!」と泣き出して、目が覚めた。

 嫌な夢だ。実は1週間前、風呂の洗い場で転倒。腰を強く打ち、一時は「救急車のご厄介」になりそうになった。結局、普通の車で移動したが......。そんなことがあって「ヘンな夢」を見たのだろう。

 その時、患者同士の世間話で「外科医がいない病院があって、手術できないところもある」と聞かされた。

 この情報も「嫌な夢」のキッカケになったのかもしれない。外科医が激減している。外科は「3K(きつい、汚い、危険)」。当直、救急、長時間労働、それに、がん治療......。外科医には毎日毎日、負担の大きい「仕事」が課せられる。手術を一例一例こなし、評価を受けるのは嬉(うれ)しいが、要するに「肉体労働」なんだろう。

 手術にはリスクが伴う。どんな名医でも「医療訴訟」に発展するケースに遭遇する。外科医の月収は(勤務形態、経験年数、専門分野、勤務先などで違うが)平均60万円から70万円。年収に換算すると1100万円前後。

 安い!と思う。

 比べていいか分からないが、例えば、美容外科医の場合、平均年収は2000万円。中には、年収5000万円を超える医師もいる。患者同士の世間話だから、嘘か? 本当か? 分からないけど、東京・渋谷や麻布あたりの(時価数億円の)タワマンに多くの美容外科医が住んでいるらしい。

 これと比べれば、外科医は〝割の悪い仕事〟なんだろう(510日、日本消化器外科学会主催の「消化器外科医がいなくなる日?~外科の危機から見える、私たちの医療の未来~」が開かれ、さまざまな問題提起が行われた)。

「外科医の危機」だけではない。病院自体が「存続」できるのか? 危機に瀕している。

 帝国データバンクによると、今年16月の医療機関(病院・診療所)の倒産は、病院(ベッド数20床以上)9件、診療所12件。休廃業したり、解散した医療機関は病院で12件。診療所が288件。こんなことは今までなかった。

「病院がありません! 自宅に帰ってください」という、あの夢は現実の日本で「正夢」ではあるまいか?「患者の命」は当然だが、「医療機関の命」を救わなければ、日本はダメだ!

.....................................................................................................................

 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム