サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2025年7月27日号
〝伊東市長の学歴詐称騒動〟の陰に「大政党離れ」の歴史的な気分...
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牧太郎の青い空白い雲/993

 終戦後の昭和23(1948)年、近江俊郎が歌った「湯の町エレジー」が大ヒットしたのを覚えている。〽伊豆の山々 月あわく〜、だ。テレビがない時代。大人たちはラジオで講談、浪曲を聴き、歌番組で「湯の町エレジー」を口ずさんだ。あの頃、日本人にとって〝温泉旅行〟はまだまだ「夢のようなレジャー」だった。

 この歌の舞台の一つ、「静岡県伊東市」が5月の市長選で当選した女性市長の〝学歴詐称疑惑〟で揺れている。「新市長は東洋大学卒ではない! 中退どころか除籍だった」という内容の怪文書?が市議会に届いたのだ。

 地元紙報道では、当の田久保真紀市長は「非常に恥ずかしい言い方になりますけど、勘違いをしていたんだろう」と話した。最終学歴を勘違いなんて!あり得ないと思うが......。「除籍」という告発者の指摘は事実だったのだ。

 市長はなぜ「大学卒」にこだわったのか? よく分からない。

 昭和の大政治家・田中角栄は最後まで「小卒」と言い続けた。彼は新潟県の二田尋常高等小学校卒。しかし、中央工学校夜間部土木科を卒業している。研数学館、正則英語学校、錦城商業学校商業科などでも学んでいた。多分、角さんは「故郷の小学校」を卒業したことに誇りを持っていたのだろう。
「学歴」なんて、少なくとも「人間」を判断する材料にはならない(どうでもいいことだが、俺の女房は「中卒」である)。俗に、選挙に必要なのは三バン(地盤・看板・鞄(かばん))。田久保さんは選挙に勝つためには「学歴も、支持組織(地盤)と知名度(看板)の一種」と思ったのだろう。それこそ「勘違い」である。

 実は、伊東市長選の結果を前々から注目していた。選挙の争点は「総額約42億円の新図書館計画」だった。現職は「新図書館の建設」を初当選以来の公約にしていた。「箱もの」を建てれば経済効果が上がる。自民党的な発想である。それに反対したのが、市議だった田久保さんだった。市内でカフェを経営しながら、大規模太陽光発電所の反対運動の先頭に立った人物。現職は自民党、公明党、連合静岡、それに観光、建設など約70の組織・団体から推薦を受け、両者の一騎打ちになった。

現職断然有利!と予想されたが......。結果は田久保さんが1万4684票を取り、現職(1万2902票)を破った。田久保さんがどういう人物か分からない。詐称疑惑について市議会は7月7日、辞職勧告や百条委員会設置を全会一致で可決。一方、同日の会見で田久保さんは辞職表明し、出直し市長選に出馬する考えを明かすなど、ドタバタ騒動になっている。

 参院選も終盤を迎えている。もしかして、大政党の現職がバタバタと倒れてしまう!なんてことも。ともかく歴史的な選挙である。

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